人間の都合で自然を捉える西洋的思考ではなく、人間は自然の一部であるという日本的思考が広がりつつある。

 


リンクより転載します。
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いま、地球の自然環境が破壊されている中で、世の中のプロダクトが石油由来のプラスチックから自然のマテリアルにどんどんシフトしている。「植物由来」や「生分解性」という言葉はもはや、私たちにとって目新しい言葉ではなくなりつつある。

一方で、それらの自然マテリアルに使われる植物は一体、どこから生まれているのだろう。その答えは、「土」である。しかし、国連食糧農業機関(FAO)によると、食料生産に欠かせない地球上にある土壌の33%以上がすでに劣化しており、2050年までに90%以上の土壌が劣化する可能性が訴えられている。

(中略)

いま、世界中で脱炭素化への取り組みが進むなか、空気中のCO2を吸収する「土の力」が、地球環境の改善において注目されている。フランス政府は2015年に開催されたCOP21で国際的な取り組み「4パーミルイニシアチブ」を提唱した。脱炭素化社会へ向け、土壌中の炭素量を毎年0.4%ずつ増やすと、大気中のCO2増加量を大幅に削減することができ、人間が排出するCO2をほぼ相殺できるとしている。

「土」こそが、地球環境の“根本的な回復”に必要不可欠である──齋藤氏は、確信を持ってそう話す。

「最近の腸活ブームにより、人間の免疫力を高めるためには腸内細菌が大事だという認識が高まっていますよね。つまり対症療法ではなく、そもそもの人間が持つ自然回復力を高めるには、腸内環境を整える必要があるんです。」

「それとまったく同じで、生命である地球を根本的に回復させようと考えたとき、地球における人間の腸内細菌は何にあたるのかと考えたら、それは『土の中の微生物』なのではないかと思いました。」

肥沃で健康な土は健康な農作物を育て、そこに育つ草木を食べる畜産物にも良い影響を与える。土が肥沃で健康であれば、結果的に人間や自然環境の健康につながっていくというのが、齋藤氏の考えだ。
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(中略)

食文化の伝統知を伝えるGENが、食の他にも力を入れているテーマがあり、それがJINOWAで「土の力」にこだわる今へとつながっている。そのテーマが、左官(さかん)技術だ。左官技術とは、建物の壁や床、土塀などを、こてを使って塗り仕上げる日本に古くからある伝統技術で、GENではこの左官技術をテーマにした教育事業を行っていた。

「いま、この日本の左官技術が世界から注目されています。左官技術は日本では衰退産業と思われてしまっている一方で、世界で今注目されている『マイクロバイオーム(微生物叢)』という考え方にも通ずるものがあるんです。」

マイクロバイオームとは、人や動物、植物などの生物回りや土壌、水、大気などの環境中に存在する多様な微生物の集合体のことを指す。人の中にも常在菌と呼ばれるおよそ1000種、数十兆個の微生物が生息しているといわれ、それら微生物叢が、私たちの健康や疾患に深く関与していることがわかっている。

「今までは『人間にとっていい菌だけ使おう』『悪い菌は全部取り除いてしまおう』という考えだったのですが、それだけではどうやら上手くいかないことがわかってきました。排除するのではなく、私たち人間もそのシステムの一部なのだから、その中の一つとして人間も機能するように考えていこうというマイクロバイオームの流れが建築の世界でも広がっており、日本の土壁が改めて注目されています。」

たとえば、醤油や味噌などの発酵食品は、土蔵でできている。土壁の中の生きている菌は呼吸しているので、調湿作用や臭いを取る機能があるのと同時に、生き物である発酵食品が持つ菌の一部と空間中で相互作用し、お互いを支え合う微生物圏を作り出す。それらによって、人間がコントロールせずとも、自然のバランスの中で調和をとる持続可能な移行システムができるのだ。

「土を食べるという文化も伝統知の中にはあるんです。オーストラリアのアボリジニや、霊長類などの動物を見ても、体調が悪ければ土を食べる習慣があります。それは土というより、微生物を取り入れて自分たちでバランスを整えているんです。」

人間が、そうした微生物が生み出すエコシステムの中の一員であるという感覚を持ち、暮らしを変えていかなければならない。「人間が自然をコントロールする」という感覚を持ち続けて発展することは不可能なのだと、齋藤氏は警鐘を鳴らす。
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転載終わり