リンク

意識の高い人ほど

『食品の裏側』がありがたいことに大ベストセラーとなったことで、私は添加物の見本を持って全国を講演で回ることになりました。

 



『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら)
講演会にいらっしゃるのは「食の安全性」に関心を寄せてくださる方々ですが、なかでもいちばん多かったのは子どもを持つお母さんでした。

多くの方が『食品の裏側』を読んで食生活を見直し、できるだけ添加物を避け、手作りをしようと努力なさっておられました。

ところがその意識の高い方々から頻繁に聞かれるのが下記の発言です。

「うちでは添加物を避けるために『無添加のだしの素』を使っています」

添加物を避け、安全性の高いだしを選んでいるということなのでしょうが、私に言わせれば「この2つ」は大差ありません。

市販のだしの素をざっくり分けると以下の2種類があります。

・うまみ調味料(アミノ酸等)入りのもの
・無添加のもの
「無添加だしの素」を使うという方は「無添加のだしの素」を、「(うま味調味料入りの)だしの素」よりも「安全性が高く、よりいいもの」と思っているのでしょう。確かに「無添加のだしの素」はなんとなく安全性が高そうだし、値段も高めです。

ではなぜこの2つが「大差ない」のでしょうか。これを紐解くにはまず「だしの素の味の組成」をご理解いただく必要があります。

「日本人の舌を壊す『黄金トリオ』の超ヤバい正体」で述べたことですが、カップ麺、スナック菓子、冷凍食品などの加工食品のうま味のベースは「3点セット」で構成されています。

3点セットとは下記の3つです。

①食塩(精製塩)
②うま味調味料(化学調味料)
③たんぱく加水分解物
このうち「①食塩」と「②うま味調味料(化学調味料)」は説明しなくてもおわかりだと思います。

「③たんぱく加水分解物」とは、肉や大豆などのたんぱく質を分解して作り出すアミノ酸のこと。多くは「塩酸」を使って分解します。

たんぱく加水分解物は添加物ではありませんが、これこそが日本人の好む「うま味の素」なのです。

この3点セットさえ入れれば味が決まり、みんなが「おいしい」と思うものが、いとも簡単に作れるのです。

日本人の舌を壊す「黄金トリオ」

私はこれを味の「黄金トリオ」と呼んでいます。そしてこの「黄金トリオ」こそが「日本の食文化を崩壊させる危険性」をはらんでいるというのが私の主張するところです。

なぜならばそれは大量の「塩分」「油分」が入っていてもそれと気づかず、おいしく食べきったり、飲み干してしまえるからです。

「日本人の体を壊す『隠れ糖質』とりすぎの深刻盲点」「日本人の体を壊す『隠れ油分』とりすぎの深刻盲点」で指摘したことですが、これこそが「食品添加物やエキス類が為せるワザ」なのです。 

添加物やエキス類には、「毒性」以上に、そこにこそ大きな問題があると私は思います。

ここで「無添加のだしの素」に話を戻しましょう。

「無添加だし」のカラクリ

「無添加」とは「何をもって無添加か」というと、「②うま味調味料(化学調味料)」をはじめとした食品添加物を添加していないから「無添加」というのです。

でも何のことはない、多くの場合、「無添加だし」は「うま味調味料」の代わりに「酵母エキス」で置き換えただけです。

「①食塩」と「③たんぱく加水分解物」はそのままか、あるいは「③たんぱく加水分解物」を別のエキスなどで代用している場合もあります。

では 「酵母エキス」とは何でしょうか。

「酵母エキス」は、酵母から抽出されるうま味の素で、「ビール酵母」やうま味専用の「トルラ酵母」が利用されます。「トルラ酵母」は専用の培地で培養され、うま味の主成分は「核酸」(イノシン酸など)ですが、培養技術によって「グルタミン酸」も作り出し「トルラ酵母」に含まれるようになりました。その結果、より「うま味」が強く出るようになったのです。

その後、数々の酵素反応によってエキスを抽出して作られるのが「酵母エキス」ですが、「酵母エキス」は「グルタミン酸ナトリウム(うま味調味料)」と「核酸系調味料」と合わせた味に非常に似ているのです。ちょっとうま味は弱いけれど、代用は可能です。

そしてポイントは、「酵母エキス」は食品添加物指定はされていないため、「食品添加物」ではないこと。ですからこれを「うま味調味料」の代わりに使えば「無添加」とうたえるというわけです。

ちなみに「酵母」というと「ビール酵母」「酵母菌」などを連想してなんだか体によさそうなイメージがあるかもしれませんが、「酵母エキス」は「酵母そのもの」とは別物です。

「酵母エキス」は最近は中国からの輸入も増えていますが、輸入が間に合わないほどの人気商品となっています。

私が16年前に出した『食品の裏側』は「無添加ブーム」を牽引したと言われますが、「酵母エキス」はまさにこの「無添加ブーム」に乗って、売り上げを伸ばしてきた感があります。

「無添加ブーム」を裏で支える立役者といったところでしょうか。

もうおわかりだと思いますが、「酵母エキス」が使われている「無添加のだしの素」も、結局は「黄金トリオ」の域を出ていないのです。そしてそこには「日本人の舌を壊す」問題は依然として存在するわけです。