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●オンラインの何が危険なのか?
コロナ禍で、オンラインでのコミュニケーションが一気に普及しました。多くの企業で、オンラインによるリモート業務は日常的になり、教育現場でもタブレットを使った授業が行われるようになりました。

オンラインのコミュニケーションにより、ビジネスにもさまざまな問題が指摘され始めていますが、今回は主に教育現場での問題に着目して、オンラインが危険な理由を紐解きます。

私は、「スマホ・タブレット・パソコンなどのデジタル機器を、オンラインで長時間使いすぎることによって、脳にダメージが蓄積され、脳本来のパフォーマンスを発揮できなくなった状態」を「オンライン脳」と呼んでいます。

「オンライン」とは、コンピュータやスマートフォン(以下スマホ)などが、通信回線を通じて、インターネットに代表されるネットワークやさまざまな端末(別のコンピュータやスマホなど)とつながった状態のことです。

オンラインコミュニケーションでは、「脳がほとんど使われない」「ボーッとしているのと同じ」「脳の活動を抑制する」「心と心がつながらない」「共感を生んで協調関係を築くことができない」……、「対面」と「オンライン」のコミュニケーションを比較する私の研究では、こんな研究結果が次々と出ているのです。オンライン、スマホなどのデジタル機器の使いすぎは、脳の活動を抑制し、自身の能力を下げてしまいます。

また、私の研究では他に「相手の気持ちを思いやりながら行動する」側面にも注目しています。対面でお互い顔を見ながらよいコミュニケーションがとれた場合には、お互いの脳活動が「同期する」という現象が起きます。

ところが、オンラインでは脳が「同期しない」という実験結果が出たのです。

これは、重要なことを示しています。脳活動が同期しないことは、脳にとっては、「オンラインでは、コミュニケーションになっていない」のです。オンラインコミュニケーションでは最低限の情報伝達はできても、「感情を共感する」までには至っていない、ということです。私は、オンラインが拡大すればするほど孤立化が進んでしまう状況が、企業でも教育現場でも目立ってくることを恐れているのです。

●教育現場のオンライン化に潜む落とし穴
学校では、ICT(情報通信技術)を積極活用する「GIGA(ギガ)スクール構想」が政府の肝いりで進んでいます。

GIGAは「Global and Innovation Gateway for All」(みんなのための世界的・革新的な入口)の頭文字を並べて、「ディスク容量500ギガバイト」というような単位のギガ(10億)とかけたものです。

文部科学省は、すべての児童生徒に1人1台デジタル端末を配り、高速大容量通信ネットワークを整備して、「多様な子どもたちを誰1人取り残すことのない、公正に個別最適化された教育によって、1人ひとりの資質や能力を伸ばす環境を実現する」ことを目指す、というのです。コロナ休校で公立校のICT化の遅れが露呈したため、文科省は整備を加速しました。

小中学生の1人1台端末は、2022年3月末時点で全国1785自治体の98.5%が整備を完了したとされます。財界や産業界は大歓迎で、高校でも急げ、ソフトウェアやコンテンツの充実も必要、と発破をかけています。親たちは、何万円かのタブレットをわが子専用で使えるのであれば、買わなくて済むから結構なこと、くらいに思っているのかもしれません。

しかし、私は、GIGAスクール構想で1人1台デジタル端末を配り、ネットにつないで教育に使うことで、子どもたちにどんな利益があるかという〝エビデンス〟が一切ないことが大問題だ、と考えています。

コロナ対策では「エビデンス、エビデンス」と叫ばれるのに、なぜ、日本の将来にとってきわめて重要な教育に関する構想が、何のエビデンスもないまま進んでいるのでしょうか。

私にいわせれば、いま学校でおこなわれているのは、税金を使った「無謀な社会実験」、子どもたちへの「悪影響を確認する人体実験」です。

文科省は、ハード面の予算をつけた以外は地方自治体に丸投げで、教育現場は1人1台端末だけが「天から降ってきた」状態です。教員のスキルも、使い方もバラバラ。親が同意書にサインのうえタブレットなどの貸し出しを受け、子どもは家に持ち帰れるようですが、子どもが勉強だけに使うとは到底思えません。

---中略---
●睡眠の質が悪くなる
たとえは悪いですが、あえて申し上げます。「子どもからスマホのようなデジタルデバイスを引き離したほうがよいですよ」と忠告するのは、薬物依存になっている親に「子どもの薬を抜いてください」と頼んでいるようなものです。

いくらそう頼んでもその親には無理、という結論は明らかでしょう。

ならば、社会全体の意識を変えていかなければなりません。

「デジタル漬けで夜ふかしする子どもたちは、睡眠の質が悪くなる。精神的にも不安定になる。授業についていけなくなる。本当に悪いことしか起こらない。このままでは子どもたちの未来が壊れてしまう。だから、早急に対策が必要だ」

そんな社会的なコンセンサスを、なんとかつくらなければいけない。私たちの社会は、そうする以外に打つ手がない段階にきてしまったようです。

「団塊世代」「バブル世代」「ゆとり世代」といった言葉がありますね。いま私がいちばん危惧していること、どうか当たらないでほしいと願っているもっとも悲観的な予想は、こんなことです。

いまの子どもたちや若者たちを中心とする世代が、将来「コロナ世代」と呼ばれ、彼らはコミュニケーションが不得手で、学力や理解力も高くないというように、ネガティブな側面ばかり否定的に語られるようになってしまうことです。

コミュニケーション下手の子どもたちが大人になり、社会の中心となっていけば、非常に難しい世の中になることは間違いなさそうです。

そう考えるからこそ私は、叩かれるのを覚悟でオンラインによるコミュニケーションに、声を大にして反対したいのです。