『世界トップレベルの生産力にのし上がったオランダの「強い農業」』
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決して恵まれた地理的環境にはなかったオランダがここまでの農業国となり得た理由について、さらに深掘りしてみたい。

以下、「オランダの奇跡と日本の新たな可能性」より抜粋引用
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●本来は農業に適した地理条件を持たない国
本来、オランダは、農業に適した条件をまるで持ち合わせていない国である。国土面積は九州程度しかなく、日本以上に農地面積が狭い。岩塩混じりの土壌ばかりである。1年中曇天が続いて日照時間が極端に短く、北海からの強風が常に吹き寄せるため気温も低い。さらに、人件費も高いのだ。これだけ悪条件が重なっているにもかかわらず、同国の農産物の輸出額は2012年時点で866億米ドル、何と米国に次ぐ世界第2位である。

●日本と同様に訪れた農業衰退の危機
世界有数の農産物輸出国の地位についたのは、最近のことだ。元々農業が盛んな国ではあった。しかし、1980年代、当時の欧州諸共同体(EC)が進める貿易の自由化を契機にして、スペインやギリシャなど南欧で生産された安価な農産物が大量に輸入されるようになり事態は一変する。国産の作物が市場競争で敗れ、農家が瀕死の状態に陥ってしまったのだ。このあたりの経緯は、貿易自由化や関税撤廃によって農業の衰退を懸念する現在の日本の先行事例になっている。

●技術開発重視の農業政策
自給率上昇を目指す農業政策では、農家を保護する税制や補助金が施策の中心になる。これに対してオランダでは、旧・農業省が経済省に統合され、農業はあくまで産業の一分野として取り扱うようになった。そして、農業政策では産業振興の観点から技術開発を重視した予算配分が採られ、農業予算の22%が研究開発に投入されている。

また、農業関連技術を扱う中学、高校、大学の役割を一元管理。最先端の技術開発と、それを活用して作物を栽培できる人材の育成を一貫して進める体制を整えた。具体的には、国内の農業大学と公的農業試験場を集約し、ワーゲニンゲンにUR(University & Research Centre)を設立。そこを中心に民間企業の研究機関を集めた世界最大の食品産業クラスター「フードバレー」を形成し、異業種間連携、産学官連携による技術開発を推進している。フードバレーには、ネスレ社、ダノン社、ユニリーバ社など世界各国から1500社を超える食品関連企業、化学関連企業が集まっており、日本からも、キッコーマン、ニッスイ、富士フイルムなどが参加している。

●厳しい経営外圧に晒される中で農業力を鍛える
オランダでは農業法人に対して技術、金融、流通など多岐にわたる支援体制が整えられている。日本では、これらの支援機能を農協がすべて担っているが、オランダでは、民間企業が専門性の高い支援サービスを収益事業として提供している。

技術面では、フードバレーで開発された技術や製品を導入・運用する際に、DLV社など農業コンサルティング企業やGreenQなど民間農業試験場が技術支援を行う。DLV社は1890年に政府が創設した農業普及機関であり、1999年に民営化された。GreenQは農家が設立した農業試験場兼コンサルティング会社である。日本での農協や農業試験場による無償の栽培指導と異なり、有料のサービスであるため、厳しい要求に応える高水準のサービスが提供されている。

金融面では、民間金融機関ラボバンクが農業法人への資金提供を担っている。設備投資への資金回収が見込めれば大型案件にも融資する一方、兼業農家には融資しない。日本の農協が扱っている、補助金に紐付いた融資や、長期かつ低利で、返済時期不問といった融資はない。事業に失敗すれば、一般企業と同様に、農家であっても倒産する。ラボバンクは、国内の農業法人の多くが顧客であり、農業法人から集まる豊富なデータを生かした経営アドバイスも行う。生き抜くための資金と知恵は出すが、無条件で生かすことはしないということだ。