本源需要とは一体何か。
建築で言えば、「脱人工物質」「木材」などであろうか。

今それらを取り入れて建築を考えようとすると、莫大なコストや、需要分を十分に生産できる供給がもうすでになかいという壁がある。

本源需要と本源生産、本源供給は一体でなけばなりえないのではないだろうか。

以下、リンク

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国内屈指の木材の産地、大分県日田市中津江村。田島山業の前身である田島家は、鎌倉時代からこの地で林業を営んできた。市場を通さず独自の販路を開拓するなど新しい林業の方法を模索し続けてきた会社である。

この田島山業の山が、2020年7月の九州豪雨で大きな被害を受けた。自社で整備した林業用の私道だけで、被害は100箇所以上。しかもその崩れ方が尋常ではなかった。水が流れた跡もないのに地面がざざっと下に落ちている。木が立ち木のまま滑り落ちそのままの向きで倒れている。会社には40年以上林業に携わってきた人や、伐採の腕前は誰にも引けを取らない現場派などプロ揃い。そうした面々をしてもわからない現象が多発。いったい山で何が起こったのだろう。

その謎を解明したいと招いたのが、一般社団法人「大地の再生 結の杜づくり」の矢野智徳(やの・とものり)さんだった。矢野さんはここ約30年の間、荒れた土地や畑、被災地など数々の現場に入り、土地の水脈を整えることで、自然がみずから蘇ろうとする力を生かして環境改善を行ってきた人だ。

■ダムの話以前に見るべき視点
2020年7月上旬に起きた九州豪雨は熊本県を中心に九州全域に甚大な被害をもたらした。テレビでも大きく報道された球磨川流域ではとくに被害が大きく、10年前に白紙撤回された川辺川ダム建設の話が再び持ち上がったのも「ダムがあれば浸水面積が約6割減だった」という推定値が公表され「どれほどの被害を出さずに済んだか」の議論が再燃したからだ。

当時建設中止を決めた熊本県の蒲島知事本人が「自分の決断を翻すのは容易ではない」としながらも、流水型ダムの建設決定を表明。それがちょうど、この取材を行った2020年11月のことだった。

★矢野さん ダムそのものが悪いわけじゃないんです。そのつくり方、上流の水をどう対処するか。

巨大なコンクリートで垂直に水をせき止めるのではなくて、自然に水の加速を緩めるような角度で受け止め、ほどよい量を流し続けてやる。そういう自然に沿った機能を取り入れることが重要で。現代土木にはその視点が欠けていて災害対策としても生かされていない。これが問題だと私はみています。

■水脈が渋滞を起こす
田島山業の有する1200ヘクタールの山は、九州北部一帯の水資源である筑後川や矢部川などの上流域にあたる。山には公道だけでなく、自社で整備した林業用の私道も35本。いずれも大型の10トントラックが入る4メートル幅の立派な道だが、これらがことごとく被害を受けた。

矢野さんは、田島さんたちの話を一通り聞いた上で山全体の地図を指しながらこう話し始めた。

矢野さん 被害にあった場所の水脈をみると下流にダムがありますよね。大雨が降ると、このダムが水をせき止めてものすごい量の水が溜まるんです。

すると本流の水が上流に向かって水はけを悪くして、連なる水脈全部が渋滞するのです。川の合流地点にも次々と水が貯まって大きな岩も持ち上げるような水柱ができ、山がスポンジのように水を吸って。

するとどんなに急峻な崖でも、水の抜け場がなくなった土地が下から引っ張られるようにして崩れます。

上から大量の雨水が流れて崩れたのではなく、流域一帯に水が溜まり、山の斜面が水を大量に吸収して耐えきれなくなり崩れ落ちたというのである。この話に、田島山業の人たちは驚きの表情を浮かべていた。

■水が滞留した痕跡
「豪雨の日、鯛生川はあふれていて、上流からの水は加速する一方で、ここで渦を巻くように水が滞留したんですね。水かさがぐーっとあがって壁面に水がどんどん浸透して土を削った形跡がある」と矢野さん。

矢野さん こうした堰堤(えんてい)や砂防ダムが水の流れを邪魔していることが多いんです。守ってくれるはずのダムもメンテナンスされないと流れの詰まりをつくってしまう。ここも豪雨の時は、相当高い位置まで水がたまっていたはずです。斜面に倒れている木々を見るとぐるぐると水が渦をつくっていたことが、わかりますよね。

■自然の機能を生かすように3割だけ手を入れる
矢野さん いま全国で起きているのは、大地の呼吸不全です。大地の血管である水脈が、溜池、U字溝などの水路、砂防ダム、大型ダム、コンクリート道などの人工物にふさがれて、土中の水と空気が循環しなくなって土壌が呼吸不全になる。それで泥水や洪水の問題が起きたり、生き物も弱り、木が枯れるなど生態系に異変が起きています。

近年頻発している自然災害は異常気象ばかりが原因ではなく、現場を検証すると、被害を大きくしている隠れた要因が見えてくると矢野さんは言う。コンクリートで覆われ、水脈機能が低下した大地。

100%人工的に自然を抑え込むのではなく、自然の機能を生かすように人が3割の手を入れてやると、自然はみずからの力で再生していくという。むしろ自然は放っておいても再生の方向へ向かうから、人が手を貸すことでその速度を早めようとする。現代土木の技術やコンクリートで固めること自体が問題ではなく、自然に沿う形で、そうした技術を駆使しようという話である。

僕は、環境学習とは「自然界は不足を前提に成り立っている」と知ることから始まると思っています。水も空気も足りないところに移動しようとする。循環とは、不足を調整するエネルギーが生み出す結果なんです。

食料も経済も、十分に満たされることなんてあり得ない。すべての生き物は毎日必死になって不足を補うように生きている。足りなくて当たり前なんです。生態系の一員である限りこのリスクを受け入れるところから始めるしかない。きれいごとじゃないんです。