大企業による種の支配



環境ということを学ぶ際、生命はつながっていることを実感できます。全てが関連し合っています。切り離されるものは何一つありません。これが生命の連鎖なのです。インドでは、種子をBija(ビージャ)といいますが、外部からは何も投入されず、そこから生命が生まれ、永遠に続くことを意味します。それが本来の種なのです。小さな種は、元は植物から生まれたものであり、その植物も、もともと小さな種から生まれました。この進化の連続性が、この小さな種の中に込められているのです。まさに、何百万年もの間につくられた自然の進化の結晶であり、何千年にも及ぶ人類の歴史でもあるのです。種は、全ての根源なのです。

種子の原則は、多様性と繁殖、そして自由な交換です。また、それぞれの土地の固有種には、風味の良さやさまざまな問題に対する耐久性などといった特質があります。これまでに種子を私有財産として扱った文化はありません。種は常にコミュニティーの資源であり、誰でも手に入れることができるものです。

私はインドのデラドゥーン出身で、そこはバスマティと呼ばれる香り高いコメの産地です。ところが、このバスマティライスの特許を取得したテキサス州の企業が、「コメ、種、香り、および調理法も、自分たちで発明した」と主張してきました。この企業が1998 年にこのコメを生み出すまで、私たちはコメの調理法を知らなかったというのです。

私が「種子」に人生をささげている理由は、これらの虚偽の主張があったからです。それは種の所有権や特許権使用料を主張する動きです。これらのことが、インドの農家にどれだけの影響を与えたかを、我々は目の当たりにしてきました。現在、世界で最も多くの種子を支配している企業はモンサント社です。彼らは1998年に、「BTコットン」と呼ばれる遺伝子組み換え種子を用いて、インドでの綿花分野に参入してきました。今日インドでは、95%の綿花の種子が彼らに支配されています。それにより種子の価格が、7万倍にも跳ね上がってしまいました。その半分が特許使用料としてモンサント社へ入っていくわけです。

この20 年間、遺伝子組み換え技術は、主としてトウモロコシ、菜種、大豆、綿の4 種の作物の、BT(害虫抵抗性)とHT(除草剤耐性)の2 形質に活用されてきました。BT というのは殺虫成分を作る遺伝子を植物の中に組み込み、特定の害虫に抵抗性を持たせた作物です。HT とは除草剤耐性を持つもので、最も有名なものは、除草剤「ラウンドアップ」に耐性のある植物です。これはラウンドアップを散布したときに、耐性を持つ植物だけが生き残り、周りの雑草などは全て死滅するというものです。

本当にこれらの技術は、害虫や雑草を駆除するために機能しているのでしょうか? 実際は、そうではありません。今では綿花にも新種の害虫が現れました。これらの技術が通用しないスーパー害虫が出てきており、アメリカでは、7,000万ヘクタールが、ラウンドアップが効かないスーパー雑草で覆われています。もはやラウンドアップの効果が無く、耐性ができた雑草には、なすすべもありません。10月にアメリカで、新たな遺伝子工学技術が承認されました。それは、ラウンドアップの耐性だけでなく、2,4-D(ベトナム戦争で使用された枯葉剤)の耐性を持つものです。

ハワイ州のマウイでは、最近の住民投票で、「遺伝子組み換え作物一時的栽培禁止(GMOフリー)」が可決されました。するとラウンドアップおよびラウンドアップ耐性の種子を所有するモンサントと、エンリストと呼ばれる2,4-Dを所有するダウ・ケミカル(世界最大手の化学企業)の両社が、この投票結果の無効を求める訴訟をマウイの自治政府に対して起こしたのです。地元住民が遺伝子組み換え作物を望んでいないにも関わらず……。まさに、GMOという名の暴力行為です。

モンサント社は、80年代にWTO(世界貿易機関)の知的財産に関する規則を打ち立てました。彼らは、種子を採ることが犯罪だと宣言したのです。




生命尊重から経済重視の社会



今日、私たちの社会を支配するエコノミー(経済)という言葉は、エコロジー(生態学)と同じく、「家」を意味する「oikos」(オイコス)というギリシャ語からきています。エコロジー(生態学)とは、私たちが住むこの惑星についての科学であり、エコノミー(経済)とは、その私たちが住む場所を管理することです。しかし、今日経済と呼ばれているものは、私たちが住むこの地球とは何の関係もありません。どんなことをしてでも金もうけをすることを意味するようになってしまったのです。

経済のグローバル化に伴い過去20年間にどのようなことが起きたかを振り返ると、実際のところ、生活のすべを台無しにして、金もうけのための規則が作られていったのです。

産業的農業の問題の一つに、食物が製造物であるという誤った考えが植え付けられていることが挙げられます。食物は生命です。人類は生命ピラミッドの頂点に位置していますが、食物連鎖においては、土壌にすむ微生物の方が人類より上にいます。人間は生を終えると土壌微生物の食物になるからです。それに気付けば、私たち人間はもっと謙虚になれるのではないでしょうか。

日本には里山という素晴らしい文化があります。かつて私たちは自然と共存し、自然に畏敬の念を抱き、そして自然と共に驚くべき豊かさを生み出してきました。しかし今私たちは、足りないという「不足」の観点からしか物事を見ていません。つまり、土壌は自ら栄養素を作り出すことができず、足りない部分を肥料によって補い、種子は自ら再生できないため、遺伝子組み換え(GM)種子を毎年購入しなければならないという考えです。

そして、この混乱の核心は、企業が地球上の生命を創り出しているという創造の神話が原因です。企業は遺伝子組み換え種子に対して特許を取ります。しかし本来特許は、発明と創作物に対して与えられるものです。自然は自らを創り出し、種子も自己創生します。発明品ではないのです。しかし彼らにとって、土というものは空っぽという理解なのです。そして、人々はその空っぽの入れ物で植物を育てるには、工場で作った窒素肥料の投入が必要であり、種子と植物は農薬や化学肥料を燃料とする「機械」であると定

義されています。本来、種子というものは、常に進化し、生命の状況変化への適応能力を持ち、土壌や他の生命と共に、私たちに豊かさを与えてくれるものです。

食料システムに関する2 つの未来に私たち人類は直面しています。1 つ目の未来は、独占と単一文化を基盤とする未来です。独占に立脚したこの未来の基盤は、特許と種子の所有権です。インドのような国では、綿の種子から特許使用料と利益を搾り取ることで農家の人々を借金漬けにし、自殺に追いやっているということを意味します。経済のグローバル化によって、独占が根付いて以来、インド政府の公式データによると、29 万1 千人の農民が自殺しています。

モンサント社は、すでに種子のほとんどを所有しており、今や人類の食物・農業システムを完全に掌握する最大の気候データ会社と最大の土壌データ会社を所有しています。私たちは自らの食物に対して、こんな独裁を望んでいますか? それとも「種子・食物・社会が自由である未来」を望んでいますか?



産業的農業による食と環境破壊



実際のところ、産業型グローバルフードシステムと呼ばれるものは、もはやフードシステムではありません。なぜなら、このシステムでは私たちを養う作物を育てる土壌に栄養素が循環されないからです。土壌の栄養が枯渇すると、植物から栄養が無くなり、そして人体から栄養が失われます。

農家の人々は、化学物質を含有する土壌でミミズや微生物など、どれだけ多くの生物が殺されているかが分かっていないのです。そして土壌と生物が生存できない状態であるように、こうした化学物質は土壌だけにとどまらず大気をも汚染しているのです。化学窒素肥料の使用は温室効果ガス、そして気候の安定性を脅かす窒素酸化物を発生させます。これは大気と土壌だけの話ではなく、水も同様です。全ての窒素肥料が海に流れ、生物がすむことのできない酸欠海域ができるからです。つまり、これらの化学肥料は全て不要なものなのです。なぜなら、私たちが環境保全型農業を行えば、土壌に栄養素となる有機物が戻り、土壌が肥沃になれば、土壌は私たちに多くの食物を与えてくれるからです。化学肥料を与え続けられた土壌にはビタミンやミネラルなどの微量栄養素が全くありません。また微量元素も存在しないのです。微量元素とは、私たちが生きていく上で少量でも必要なもので、銅やマンガン、亜鉛などが挙げられます。ですから、産業型のシステムは、食料増産という錯覚をつくりだし、実際には本物の食物を消滅させているのです。

FAO(国連食糧農業機関)の最近のデータによると、人々が食べる食物のうち産業システムによって作られたものは30%に過ぎず、残りは小規模農場で作られています。そして、多くの作物は動物の餌になり、またバイオ燃料として使われます。そして言うまでもなく、その全てが補助金に基づいて行われています。補助金は私たち市民の税金でもありますが、私たちの健康と未来への利益のためにならないことに流用されているのです。私はちょうどインド農業省に提出する報告書をまとめたところなのですが、国家防衛予算の総額よりも、化学肥料のための補助金支出の方が多いことが示されています。

ヘレン博士の講演で、土壌、生物多様性、水、気候の破壊状況が示されました。その中でも特に重大だと感じたのは私たちの健康の破壊です。食物は本来私たちを養ってくれるものであって、むしばむものであってはならないのです。地球上の病気を全部合わせると、それらの原因のほとんどが有毒な食物からきているのです。

私たちが、豊富な栄養素と種子の多様性の両方において、きちんと地球に還元すれば、地球からはるかに多くの食物と栄養を受け取ることができるのです。このことは生態学的過程を通して、私たち人間と自然や地球との関係において紛れもない事実であり、社会に対しても当てはまります。今までの農業は単位面積当たりの収穫量を基準にしていましたが、現代の農業で作られる栄養分の少ない作物を考えたとき、収穫量ではなく、そこで生産される栄養量を基準として考えるべきです。私たちは多様性と生態学的過程を通して、1 エーカー当たりの栄養生産量について、インド国内の農家と農場を研究することにしました。データを全部共有することはできませんが、ナヴダーニャ農場での研究結果についてお話ししたいと思います。混作の場合、食物生産量は単作の2 倍を超え、タンパク質は4倍を超えました。

先ほどヘレン博士のプレゼンテーションで、ビタミンA 欠乏症対策用のゴールデンライスのスライドを皆さんはご覧になったと思いますが、混作した場合、作物に含まれるカロチンの量は、単作の8 倍を超えました。また鉄分量は3 倍を超えています。今、鉄分の不足が心配されており、インド女性の鉄欠乏症用に遺伝子組み換えバナナが導入されようとしています。もともと鉄分を含まないバナナに鉄分を入れようとしているのです。私たちは計算を行った結果、今から15 年たって実際に遺伝子組み換えバナナが成功したとしても、私たちが増やせる生物多様性よりまだ7,000% 効率が悪いということが分かりました。

また、今ビタミンA 入りの遺伝子組み換えバナナの研究もされています。インドネシアで活動する私の仲間たちは、企業が赤いバナナからビタミンA を抜き取り、遺伝子組み換えによってスーパーバナナを作り出していることを見つけました。

(詳細はナヴダーニャのウェブサイトに掲載http://www.navdanya.org/news/338-navdanya-launchesno-to-gmo-bananas-campaign )

私たちには遺伝子組み換えされた大豆もバナナも必要ありません。もちろんゴールデンライスも不要です。これらは全て、単に遺伝子が操作されているということだけにとどまらず、私たちが本来持っている多様性の豊かさを理解させないように、私たちの心まで操られてしまうということなのです。




一人ひとりの選択が命を守る



ヘレン博士のプレゼンテーションでご覧になった通り、環境保全型農業に答えがあると思います。遺伝子組み換え作物と産業的農業に解決策はありません。どんなところにも、単一文化ではなく多様性が必要です。種子の多様性、土壌中の多様性、文化の多様性、嗜好の多様性、そして知識体系の多様性と政治の多様性も必要です。

農業に従事していない人たちは、こう言うかもしれません。「自分と種子にどのような関係があるのか」と。関連性のある第一の理由は、あなたの食べる物全てが種子から始まっているからです。もし農薬まみれの食品を口にして、そこに遺伝子組み換え作物が使われているかどうかということに関心を持たないならば、それはグローバル化したGMO 帝国をサポートしているという意味になります。逆に、あなた方が消費者のために、愛情を持って自家採種した種子で作物を育てる農家の人々と意識的につながれば、

自然が元気になり、生産者が元気になり、あなたが健康になるシステムをサポートすることになるのです。その選択は私たち消費者にあるのです。

私たちの多くは、遺伝子組み換え作物は要らないと言ってきました。しかし今度は、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)という名の新たな自由貿易協定が提案されています。WTO が生命に対する所有権を生み出すために利用されたとするならば、TPPと、その欧州版である環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)は、企業に人と同等の権利を与え、逆に私たち人間から一市民である権利を奪うことで、企業による最終的な支配を確立するために利用されようとしています。

グローバル化は、これまで地球や地域経済を破壊し、そして今、民主主義を根幹から揺るがし、文化を滅亡させつつあります。文化とは、私たちが社会の一員としてどのように暮らしていくかについての価値観を育む土壌です。私たちが地球市民という意識を広げるためには、地域に即した経済活動を行っていく必要があります。それは、生きた経済、生きた民主主義、生きた文化を生み出すことなのです。

今日、皆さんは投票に行かれたと思います。しかし、私たちは日々の生活で毎日投票を行っているのです。何を選んで食べるか、一口食べるごとに、破壊をもたらすシステムと創造をもたらすシステム、いずれかに投票することになるのです。

来年は国連において「土壌」がテーマの年です。来年は私たちの健康の中に、種子と土壌との結び付きを見る機会になるはずです。

私たち一人ひとりが種子であり、生活の在り方一つ一つに、人類が健康に暮らすことのできる未来の種子をまかなければなりません。


ご案内詳細はここをクリックして下さい!
ヴァンダナ・シヴァ博士
近畿大学 東大阪キャンパス
10/10(月・祝)12:00会場

奥田 政行シェフ


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