デング熱 | 奈良西部病院のブログ

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デング熱 平成26年6月11日

ブラジルではワールドカップにおいて日本VSコートジボアール戦が615日(日曜日)に開催される。そこで今回は中南米やアジアに流行しているデング熱に関してお伝えする。

残念ながらデング熱に効果のあるワクチンは未だ開発途中であるので、現在のところ蚊に刺されない事がこの病気を防ぐ唯一の方法である。勿論地域によってはベクターコントロールにより地域内での流行を阻止しているところもある。

 デング熱は,デングウイルスを保有するネッタイシマカ(Aedes aegypti)やヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(写真1)の刺咬によって媒介される感染症である。デングウイルスは節足動物によって伝播するアルボウイルスの一つで,フラビウイルス科に属し1型から4型まで4つの血清型のウイルスが存在する。非致死性熱性疾患であるデング熱と,重症型のデング出血熱(デングショック症候群)という二つの病態がある。

デングウイルスは熱帯・亜熱帯地域に広く分布し(図1),WHOによると全世界で約25億人が感染の脅威に曝されており,毎年5000万人近くが感染していると推計されている。これまで日本を含めた多くの先進国ではデング熱の国内発生は確認されていなかったが,20109月にフランス南部でデング熱国内感染例の報告があり,輸入感染症対策やベクターコントロールなど公衆衛生上問題となっている。

また2013年には日本を旅行したドイツ人がデング熱に感染している。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000034381.html

現在までのところ日本国内での流行は報告されていない。


1.疫学

 デング熱は,媒介蚊の存在する熱帯・亜熱帯で見られ,とくに西太平洋地域を含めた東南アジアからは全体の約75%の報告がある。ここ10年間で世界的に増加傾向にあり,2010年度は中南米でも多くの発生が見られている。月別患者発生状況は,概ね東南アジアは69月(インドネシアは12月,マレー半島は明確な季節性なし),南アジアは811月,中南米は13月および810月,アフリカはとくに季節性は見られない。流行は雨期と媒介蚊との関連性が示唆されている。

 2012年2月現在まで日本国内におけるデング熱報告は全て輸入症例である。200018例,200150例,200252例,200332例,200449例,200574例,200658例、200789例,2008104例,200993例,2010244例の報告がある。感染地域(確定または推定として報告されている)はアジアが最も多く,例年インドネシア,フィリピン,インド,タイなどからの報告が目立つ。近年シンガポールも増加しており報告例の発病月は夏季休暇による渡航者増加の影響を受け710月が多い。

 

2.病原体

 デングウイルスは,日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルス科のウイルスで,蚊(主にネッタイシマカ)によって媒介される。血清型は1型から4型に分類され,一部共通抗原をもち血清学的交差反応を示すが,異なる型のウイルスに対する感染防御能は低い。このためワクチン製造が難しいと推測される。同じ血清型に対しては終生免疫を獲得するとされるが,異なる型のウイルスには感染することがあり,その際にT cellの免疫応答によりデング出血熱を発症する可能性が高くなると言われている。ショックステージも同様の機序が推測される。自然界ではヒト→蚊→ヒトの感染環が成立しており,日本脳炎ウイルスにおけるブタのような増幅動物は存在しない。


3.臨床症状

 デング熱は,発熱・発疹・疼痛が三主徴の非致死性急性熱性疾患である。通常37日間の潜伏期後,突然の発熱で始まり,頭痛(眼窩痛)・関節痛・筋肉痛を伴うことが多い。時に腹痛・下痢などの消化器症状を伴うこともある。有熱期間が36日間続き,解熱とともに胸部・体幹から始まる掻痒を伴う斑状丘疹性発疹が出現し(写真2),四肢・顔面へ拡大する。これらの急性症状は1週間程度で消失し,通常後遺症なく回復する。一般検査所見では,末梢血白血球減少および血小板減少は特徴的であり,血小板は10万を切る事が多い。CRPは弱陽性あるいは陰性であることが多い。軽度の肝機能異常を示すこともある。

中南米・アジア・アフリカ等途上国では解熱にアスピリンを使用する事が多く、デング熱の場合血小板減少と相まって出血傾向が増長されるのでアスピリンは禁忌である。

アセトアミノフェンで解熱されたい。

 デング出血熱は,デング熱とほぼ同様に発症して経過した患者の一部で,突然の血漿漏出と出血傾向が見られ,血漿漏出が進行すると循環血液量不足によりショック状態となるため補液が必要とされる。(写真はショックステージから離脱したタイの子供達。)ショックステージは数時間で回復するため補液が多すぎると心不全をきたすとのことで注意が必要である。

4.日本におけるデング熱の変遷

 日本国内では戦時中19421945年にかけて西日本(長崎・佐世保・広島・呉・神戸・大阪など)を中心にデング熱の流行があった。当時のデングウイルスは東南アジアから帰国した軍用船乗組員のデング熱罹患者によって国内に持ち込まれ,各都市で大量に発生していた土着のヒトスジシマカにより流行が起こった可能性が示唆されている。戦後の公衆衛生対策等により現在ウイルスは国内に常在せず報告は輸入感染例のみとなったが,海外渡航者数の増加・渡航先の多様化等の理由により報告数は前述の通り近年増加傾向にあり注意が必要である。(了)

文責:古閑比斗志






写真1:吸血中のヒトスジシマカ

写真提供 国立感染症研究所昆虫医科学部


厚生労働省FORTHより引用




写真2:デング熱患者の発疹(日本人男性患者)

国立感染症研究所・感染症疫学センターより引用




シリキット国立小児専門病院(Queen Sirikit National Institute of Child Health

デング熱病棟(2001年撮影) ショックステージから回復期の入院患者