『米国・中国・日本の国勢 2025』
第4回
<工業 ②>
(自動車・半導体・産業用ロボット・造船)
中国の自動車市場
生産台数、販売台数、輸出台数ともに世界一となった中国の自動車市場。EV電気自動車にけん引されて、引き続き生産・販売台数は増加を続けているが、中国語で「内巻」と呼ばれる国内市場の過度な競争環境もあり、外資自動車メーカーは苦戦を強いられている。
中国自動車工業協会(CAAM)によると、2024年の中国の自動車生産台数は3.7%増の31,282千台だった。
自動車生産設備の稼働率は、2016年の81.6%をピークに低下を続け、2020年の61.2%をボトムに再び上昇し、2023年は69.2%となった。電気自動車(BEV)では一般的に生産設備稼働率7~8割が損益分岐点といわれている。さらに、中国統計局発表の統計では、自動車製造業の2024年の売上高は前年比4.1%増だったものの、営業利益は7.8%減となっており、販売台数の増加に対し利益率の低下がみられる。(JETRO 2025)
中国自動車工業協会(CAAM)によると、2024年の中国の自動車販売台数は前年比4.5%増の31,436千台と4年連続で増加した。内訳をみると、乗用車は5.8%増の27,563千台、商用車は3.9%減の3,873千台だった。
しかし、各年末の自動車ディーラーの在庫額を確認すると、直近10年では2020年の3,984億元(約7兆9,680億円)をボトムに徐々に在庫額が上昇し、2023年は5,234億元の最高額となっている。これらからも厳しい競争環境がうかがえる。
2024年の自動車輸出台数は前年比19.3%増の5,859千台で過去最高を更新し、中国は引き続き世界最大の自動車輸出国となった。うち、乗用車は19.7%増の4,955千台、商用車は17.5%増の904千台だった。また、NEVの輸出は6.7%増の1,284千台で、うち、BEVが10.4%減の987千台、PHVが1.9倍の297千台だった。(JETRO 2025)
2025年の中国自動車販売台数について、中国自動車工業協会(CAAM)は、前年比4.7%増の32,900千台に達する見通しと示している。
2024年の中国の自動車販売の内訳をみると、乗用車は5.2%増の27,477千台、商用車は5.8%減の3,805千台だった。(JETRO 2025)
EV市場をけん引するのは中国だ。24年の新車販売台数は1100万台を超え、世界シェアの約3分の2を占める。中国国内の新車販売の約50%がEVとなっており、なかでも、内燃機関を搭載するプラグインハイブリッド車(PHEV)のシェアが増加している。
中国での急速な普及の背景にあるのは、EVの価格競争力の高まりと、手厚い政策支援だ。中国では、蓄電池の価格が30%下落したこともあり、EVの価格は、従来のガソリン車と同等か、より安価になっている。加えて、新車の買い替え時にEVを選べば、ガソリン車を選ぶ場合よりも高額の補助金が支給される。EVが同タイプのガソリン車より安価に購入できる唯一の国となっている。
さらに、大型車の電動化をリードしているのも中国だ。電動バスと電動トラックの世界シェアは、2024年時点でそれぞれ70%と80%となっている。
中国のEV台数は増え続けるが、欧州や新興国でもEVの導入拡大が進む。そのため、世界全体のEV保有台数に占める中国のシェアは相対的に低下していくと予想される。
中国の自動車業界の課題として、次の3点が挙げられる。
(1)利益率が低い(「内巻」(破滅的競争)と呼ばれる激しい値下げ競争で、自動車製造業の利益率が5%と、全業種平均の5.8%を下回っている)
(2)国際市場の不確実性のもたらす経営リスクがある(米国や欧州では、中国製BEVに関する反補助金調査を踏まえて、中国製BEVに相殺関税課すとした)
(3)認証、標準、金融面で問題を抱えている(中国と他の国の認証や標準が異なるため、輸出に当たって認証に時間がかかり、コストが増加している)
米国による規制に苦しむ中国は、半導体産業において重要な局面を迎えている。設計や製造技術は急速に進歩していて、研究活動も活発化している。世界からの厳しい逆風の中で、設計技術、製造技術ともに着実に力を付けている。
2024年現在、世界の半導体生産の一位は台湾、二位は韓国、中国は三位だが、2026年には中国がトップになると予想される。
中国の半導体市場は、極めて重要な局面を迎えている。中国は、外国技術への依存を減らすという自給自足と急速な国産技術開発に向けた国家主導の積極的な野望を特徴とする。
その強い推進力は、根強い地政学的圧力と重大な技術的障壁に直面しながらも、2024年には約1828億米ドルに達したと推定され、今後も堅調な成長が続くと予測される。
AIや5G、車載エレクトロニクスなどの主要分野における国内需要の急増により、成長は加速している。
中国政府は半導体戦略の中核を担っており、政策を通じて多額の財政支援を行っている。この国家的な取り組みは、完全な国内半導体エコシステムを構築することにより、技術的自立と国際競争力の強化を目指すものである。
このモデルでは、堅ろうな制度は確立されていないが、強力な国家能力を活用して、企業と政府機関の密接な相互連携によるメリットが得られる。
中国の半導体産業は進歩を遂げているものの、製造歩留まり、コスト競争力、そして人材育成に苦戦している。先進的な製造技術とサプライチェーンにおける継続的な問題により、2020年の約16%から自給率100%を達成することは困難だと思われる。
最も可能性の高い短期的な見通し(今後5~7年)は、国内市場の漸進的な成長と、世界市場における二極化の両方になるだろう。中国は露光装置、製造装置、材料、そして先進的なパッケージング技術を進化させ、成熟市場および中規模市場における自給自足体制を強化し、世界的に強力な競争相手となるだろう。
かつては産業用ロボット産業のトップであった日本だが、今や中国が世界最大のロボット市場と生産国だ。関連の有効特許は19万件を超えて、世界の約3分の2を占める。中国の産業用ロボット市場は11年連続で世界最大で、過去3年間近くにわたり新たに増加したロボット設置量は世界の半分以上を占める。
今、中国の工場では、中国製のロボットがどんどん増えている。中国政府は、国を挙げてロボット産業を後押ししていて、その結果、中国は世界最大のロボット市場に成長し、その勢いは止まらない。
中国のロボット市場は、世界で一番大きく、成長スピードも非常に速い。2024年には、産業用ロボットだけで約30万台以上が売れ、金額にすると約631億ドル(日本円で約9兆円以上)にもなる。
工場で働く人1万人あたりのロボットの数(ロボット密度)も、2014年の36台から2018年には140台へと急増。これは、中国の工場がどんどん自動化されていることを示している。
中国のロボット市場が大きくなるにつれて、中国国内のロボットメーカーも力をつけてきた。中国メーカーは、日本と同レベルのロボットを、より安い価格で提供することで、シェアを奪っている。
2023年には、中国メーカーのシェアが45%に達し、一部のロボットの種類では、中国メーカーが50%以上のシェアを獲得している。
中国のロボット技術が、こんなに急速に進化した秘密は、中国政府の強力なサポートにありる。中国政府は、「中国製造2025」や「ロボット産業発展計画」といった計画を通じて、ロボット産業に、補助金を出したり、減税したりすることで積極的な支援をしている。
2025年までに、工場で働くロボットの数を、2020年の2倍にするという目標を掲げている。
中国造船業の存在感が、国際市場でますます強まっている。中国工業・情報化部が公表した2024年の統計によれば、中国の世界シェアは造船完工量55.7%、新規受注量74.1%、保有受注量63.1%の全てで世界一を記録した。造船大国の韓国や日本を大きく引き離しながら、高付加価値な船種でも製造能力を高め、名実ともに「造船超大国」としての地位を固めようとしている。
中国製造業の強みは、強力な国の後押しと巨大な内需市場に支えられたスケールメリットと多様な人材基盤にある。2000年代初頭、当時の朱鎔基総理が「2015年までに世界最大の造船国となる」と宣言して以降、中国は造船業を国家戦略の柱とし、包括的かつ持続的な支援体制を整えてきた。こうした政策の累積が、量と質の両面における飛躍につながっている。そして、2008年には日本を、2010年には韓国を造船量で追い抜き、朱総理の目標を前倒しで世界大の造船国となった。質の面においても、中国はLNG輸送船用設備の国際標準での主導権や高品質な製品により、韓国の独占的地位を脅かしつつある。
さらに、中国の海運・造船業の国際競争力を押し上げた要因の一つが、国有大手の戦略的合併である。効率化と寡占の徹底が、中国の産業戦略の根幹に位置づけられていることを示す象徴的事例といえる。
近年、二酸化炭素(CO2)の排出削減に向けた世界的なエネルギー・シフトが続く中、ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界のエネルギー貿易の再編が重なり、LNGの需要が拡大した。造船業界はLNGタンカーの建造ブームに沸くことになる。しかし、既に飽和状態にあった日韓の造船受注能力では、急増した需要を吸収しきれなかった。ここに中国が、圧倒的な物量の生産能力で、ここ数年の受注急増に対しても、柔軟かつ迅速に対応し需要を取り込んできた。こうして中国は、世界的に縮小していた造船能力を一手に吸収してきた。
中国の造船業の発展は、国家主導という制度的枠組みに加え、旺盛な利潤追求を体現する企業の創業精神が交錯しながら進展してきたものと言える。ただし、地政学的経済安全保障上のリスク意識の高まりが、中国製船舶の採用判断に影響を及ぼす可能性もあり、そうした不確実性が今後の展開に対する不透明感を一層強めている。
====================
次回は第5回「エネルギー」
(担当E)
====================