第一章 旅館へ


洋品店を閉じたあと、私は家の旅館の仕事に入ることになった。


祖父が始めた旅館で、その後は両親が引き継いで続けていた。

場所は奈良のメイン通りにあり、客室は二十室ほどの小さな旅館だった。


商店街の店とは仕事の内容がまったく違う。お客が県内から県外でと変わる

掃除と準備は以前より多く、朝から夜まで忙しい仕事だった。


こうして私は四十歳頃から、旅館の仕事をすることになった。


第二章 食事付きの旅館


旅館を始めた頃は、普通の旅館と同じように食事付きの宿だった。


夕食と朝食を用意し、泊まりに来た客をもてなす。

料理の準備や配膳、後片付けなど、食事に関わる仕事が多かった。


旅館というのは宿泊だけでなく、食事も大きな仕事である。

忙しい時期には、台所もかなり慌ただしくなる。


そんな形の旅館を、最初の十年ほど続けていた。


第三章 仕出しの時代


しかし旅館の仕事も、時代とともに少しずつ変えていくことになった。


食事の準備には手間も人手もかかる。

そこで食事を仕出し屋に頼む形に変えた。


客には食事を出すが、旅館の台所で作るのではなく外から取り寄せるのである。

こうすることで仕事は少し楽になり、宿の運営も続けやすくなった。


旅館という仕事も、時代や状況に合わせて形を変えていく必要があると感じていた。


第四章 ビジネス旅館へ


その後インバウンドも加わり、私はさらに思い切った形に変えることにした。


食事を完全にやめ、素泊まり専門の旅館にしたのである。

当時は食事のない旅館というのはまだ珍しく、少し変わった形だったと思う。


私はそれを「ビジネス旅館」として営業することにした。

電話帳にもその名前で載せた。「持込自由」「門限無」

そして風呂には光明石温泉を導入して「温泉有」と書いた。

簡単な三言だったが、それが旅館の特徴になった。


第五章 区切りの時


旅館の仕事はおよそ二十年余り続いた。


私はもともと、お金を大きく儲けようという気持ちはあまり強くなかった。

それよりも健康で暮らすことの方が大切だと思っていた。


仕事の合間には、自転車に乗ったり山を歩いたりすることもあった。

旅行も行き、体を動かすことが好きだったのである。


そして六十歳を迎える頃、私は旅館の仕事にも区切りをつけることにした。

こうして長く続いた商売の生活を終え、早々と隠居の時代に入ることになった。