高位精巣摘除術2 | 精巣腫瘍をめぐる冒険

精巣腫瘍をめぐる冒険

Ⅲ年b組 予後中間群

 2月18日 夜

 また腰が痛くなったり、右下腹部が痛くなったり、腰が痛くて薬を飲んだり、下腹部が痛くて座薬を入れたりして、時間が過ぎていきました。ずっと体を左に向けて、まるまっていました。
 動きたくないにもかかわらず、夜中のある時間(何時だったのかわかりません。)トイレへ行きたくなりました。しばらくは我慢して眠ろうとしましたが、そのままでは眠れません。やはり、どうしてもトイレに行かなければならないのでした。
 なんとか体を起こし、ほんとうに右わき腹をさされた人のように手すりに体重をあずけ、よたよたと廊下を歩いていくと、同室のSさんに会いました。
 「あ、Sさん。大丈夫でしたか?」と、わたしは言いました。Sさんも今日は手術だったのです。
 「いや痛くて、痛くてよう。このくだが」と、Sさん。
 見ると、Sさんの体からは、点滴、ドレーン、尿路カテーテルのあわせて三本のくだが出ており、Sさんは点滴棒にしがみつくようにして立っていました。
 それだけ言うと、Sさんはうつむいて、わたしの歩行の半分のスピードよりもなお遅いすり足で、廊下を移動していったのでした。

 トイレに着いて、ズボンを下ろしました。思わずわたしは言いました。
 「これ、どうやってするの。」
 ズボンを下ろしてみてはじめて気がついたのですが、股間にはよくわかない白いテープが十字にとめてあり、尿の出口はあらぬ方向を向いているのでした。わたしは、おもむろに、便器に対して直角に立ちました。理論的にはこれでうまくいくはずでした。しかし、理屈というものはおうおうにして人の心を無視するものです。わたしは、しばらく、そのままで立ちつくしていました。