私が今の仕事に就いたのは21歳の頃。

早生まれの私は高校卒業して18歳になった3日後に前の会社で働き始めたのだ。

前職は自動車工場の塗装部門でライン作業に従事していたが、

まず驚いたのは自分の机が無かった事。

幼稚園から高校卒業するまで席があるのが当たり前であったが就職した途端に席は無く。

あるのは休憩所のロッカーと製造ラインの持ち場だけで、チームの班長以上になると机が与えられる。

労働者となった私には席すら与えられないのかと愕然とした。


一日中立ちっぱなしで塗料にまみれて作業して家に帰って死んだように寝るが朝起きても前日の疲労は抜け切っておらず、重たい体を引きずり工場に戻る。

夜勤もやっていたのですが金曜日夜8時の出勤時間には1週間の仕事を終えて帰宅するスーツを着たほろ酔いのサラリーマンとすれ違う時に

俺も大学出ていたら昼に快適なオフィスでスーツ着て仕事できたのかも知れないなって。

スーツ組は私より上級国民。

労働者である自分を卑屈に思っていました。


そんな暮らしを3年程過ごした後で今の会社に縁あって入社。


とにかくエアコンの効いたオフィスに自分の席がありスーツ着て会社に向かうという事だけでも嬉しかった。


肉体的な疲労感は比較にならず清潔で安全で快適な職場環境に感激していました。


しかし職務を覚えるのは結構大変でしたし

外資系企業なので使えなければあっという間にクビ。

毎日緊張感を持って出勤して

帰宅すると今日はクビにならなかったなと安堵。


クビになればまた労働者に逆戻りになるという恐怖感をずーっと感じて暮らしていました。



今でも時々前の会社が夢に出るんですよ。

ドロリとした目つきで工場に吸い込まれていく労働者に混じってタイムカードを押して永遠に流れてくる製造ラインに間に合わなくなる夢。


朝起きても身体中が重たく疲労しているんですよ。


今の生活はもしかしたら夢で目覚めたらまたもとの工場勤務に戻ってしまうんじゃないかって時々思う事がある。


今のオフィスにも工事や掃除で作業服を来た人が出入りする事もありますが、


彼らには私は高学歴でちゃんとした学位を持って外資系企業で働いているように見えているのかも知れない。

でも私は元々労働者なんですよね。

いつかまた元の鞘に戻ってしまうんじゃないかという恐怖心は中々拭えない。


それでも30年働いてそれなりの資産と権利を保有しているのでもう働かなくても食っていけるまでにはなれたからこの呪縛からは解放されつつある。


元々は労働者だったけど結構うまい事やってこれたなって最近は思えるようになれました。