週の途中でシフト変更があったおかげで5連勤にはなったものの、2連休となった。
新しい仕事には徐々に慣れてきた気がするけれど、とにかく座りっぱなしなので、なんだか脚がなまってきたように感じている。
毎朝4時起床の生活リズムにも慣れてきたけれど、やっぱり眠気はある。
そんなわけで、この二日間はのんびり過ごそうと思っている。
とはいえ、今週は行けないかもしれないと思っていたシネマネコさんに行けることになったので、14:20上映回を鑑賞しに行った。

上映開始1分前にいつものB-5に着座した。

パリ・ブレスト 〜夢をかなえたスイーツ〜

海辺を歩く青年のヤジッド。
彼は人とは違う道を通っていたが、そんな中でも“星”を求めていた。

 

幼い頃のヤジッドは、スーパーマーケットで万引きしてきた食材で、お菓子作りをしたが、想像していた出来とはかけ離れた失敗作だった。
母親にはそれを“ゴミ”とけなされてしまい、赤ん坊が泣けばミルクを作るのも、それをあげるのもヤジッドの役割。
家の中は散らかり、汚れていた。

青年のヤジッドは、皿洗いとしてパリの高級店に潜り込んだ。
そこは敬愛する国家最優秀職人章を授与されたパティシエのいる店。
シェフの訓示の最中に音を立てて洗い物をしていたヤジッドは、シェフに呼びつけられ、嘘をついて雇われた経緯が明かされ、解雇になりかけるが「テストしてください」と懇願する。
“責任はつかみとるものだ”というシェフの言葉を引用して気をひき、テストとして作ったスイーツ。
「彼を残しておけ。まだ散らかってはいるが、筋は良さそうだ」
そして月曜日8時に出勤するように言われたヤジッド。
そんなヤジッドは、電車に乗り、車を走らせた180キロ離れたエペルネの養護施設に住んでいた。
養護施設でヤジッドは問題児扱いされていた。
無断外出などの常習犯であり、その日もルームメイトと喧嘩騒ぎを起こした。
そのことで寮長と面談し、寮長には食堂のバイト代を没収されたうえで、施設を移るように勧告された時、ヤジッドは言った。

「寮長は唯一の理解者です。寮長しか頼る人がいません」
その言葉は、ヤジッドの母がかつて言った言葉だ。

幼いヤジッドが母親に連れられていると、突如母は靴を脱ぐようにヤジッドに言った。そして靴を切り裂いて、履かせた。
そのうえで訪れたカウンセリングで、里親にもこんな靴しか与えられていないと訴え「あなたは唯一の理解者、あなたしか頼る人がいないのよ」と泣きつき、母親は当座の生活費をせしめた。
しかし母親には生活能力はなく、ヤジッドは里親に預けられていたのだ。
里親の家庭では温かい団欒があり、ヤジッドは本当の家族のように扱われていた。
その家にはパティシエの息子がいて、ヤジッドはその手伝いをしながらパティシエに憧れを抱くようになっていった。

青年のヤジッドは養護施設の食堂でバイトをしていたが、その日ヤジッドが作ったデザートを職員のサミーは大絶賛した。
友人もヤジッドの才能を認めていたが、養護施設の彼らは世の中に悲観しドラッグに手を出しているものが多かった。
その夜、ヤジッドが友人に付き合って向かった場所ではドラッグの取引が行われており、そこへやってきた警察に捕まったヤジッドは拘留されてしまった。

母親が身元引受人になり、朝には釈放されたヤジッドだったが、母親からは罵られるのみで、その声から逃げ出すように走り出したヤジッド。
施設に戻るとサミーが慌てていた。
「拘留されるなんて!問題にはなるだろうけれど、お前には才能がある、それを伸ばすべきだ」
おたなしくしていろとサミーに言われるが、ヤジッドは電車に乗ってパリに向かった。
しかし、180キロの距離は遠く、シェフとの約束の時間に遅刻してしまう。
遅刻したことで無視されてしまうヤジッドだったが、なんとか持ち場を与えられた。
「一番のシェフになるにはどうしたら?」
その言葉にその場にいたパティシエたちは笑ってしまうが、シェフはしっかりと答えてくれた。
「一番か天才か、場合によるが、決められた規則の中にいれば一番になることはできるだろう」
シェフはスイーツの材料選びなど、基本的でありながら含蓄のあることをヤジッドに教えた。
「修練あるのみだ」
そんなある日、多くの注文が入ったことで各パティシエに担当が割り振られた。
「パティシエであるとともに、アーティストであれ!冒険者であれ!そしてシンプルであれ!」
ヤジッドはその時、担当のものではなく“フォレ・ノワール”を作った。
担当したパティシエのものと味比べをしたシェフが選んだのは、ヤジッドのもの。
ヤジッドはそうやってチャンスを作り出し、掴み取っていった。

そんなある日、寮長はサミーにヤジッドを別の施設に移送することを告げた。
「手に負えなくなったら放り出すなんて、ひどい教育だ!」
サミーは自分も辞職することを告げて、戦うことを宣言した。
そのことを知ったヤジッドは「サミーを無職にさせられないよ」と言って、施設を出ていくことを決意した。
里親が車で迎えに来た時、ヤジッドは「世界一のパティシエになるんだ」と告げた。
それからのヤジッドは、パリの店で遅くまで修練を続け、野宿をしながら生活した。
そして2013年。
ヤジッドはコートダジュールのグランホテルで働いていた。
そこでも野宿の日々。
そこではヤジッドの才能に嫉妬する者がスーシェフとして君臨し、ヤジッドは果物係の日々だった。
友人のマニュに対してもそのスーシェフは嫌がらせを行っていたが、そのパティシエとしての才能だけはヤジッドは認めていた。
マニュは海辺でヤジッドに【ロッキー2】でのエイドリアンのセリフを熱く語った。
それはエイドリアンが出産後危篤状態に陥った時のエピソードだ。
目覚めたエイドリアンにロッキーが「クリードと戦うなと言うならそうする」と言うと、それまでアポロとの再戦に反対し続けたエイドリアンが言うのだ。
“勝って!”と。

幼いヤジッドが里親に連れられて自宅を訪れると、赤ん坊が亡くなっていた。
それ以来、母親を拒絶するようになってしまったヤジッド。
しかし母親は、ことあるごとにヤジッドの人生に現れた。
マネキンで型をとったチョコレートを持って青年のヤジッドがコンテストに向かおうとした際にも、急に声をかけられて落としてしまい、台無しになった。
「全ての元凶はあんたじゃないか!母親らしいことなんかしたことがないのに!!」

コートダジュールでのある日、店で“パリ・ブレスト”が返品された。
それを作ったパティシエは、その場で解雇されてしまうが、返品したのは富豪のブシャールということで、シェフは慌てていた。
そしてヤジッドに“パリ・ブレスト”を依頼するシェフ。
「あなたのパリ・ブレストは最高よ」
急ぎながらも巧みに仕上げていくヤジッド。
そのパリ・ブレストをブシャールは絶賛し、ヤジッドを呼んでわざわざ礼を言った。
その頃、ヤジッドの母親は入院していたが、ヤジッドは相手にしなかった。
しかし里親のシモンの誕生日に合わせてケーキを作り、それは母親にも贈られた。
それはかつて母親が“ゴミ”と呼んだケーキだが、いまは美しいものとなっていた。

そんなある日、シェフから“世界選手権”の話を聞いたヤジッドは参加を表明。
マニュとともに夜中に修練を続けた。
その際、マニュにヤジッドの野宿を知られてしまう。
「ここもいいもんだ。毎晩星が見える」
そう言うヤジッドに「お前はツイてるぜ、十億星ホテルに泊まってるんだからな」と笑うマニュ。
コンテストに向けて資金を使ってしまっていたヤジッドには、銀行口座を維持する貯金もなかった。
その話を聞いたシェフは、グランホテルの一室をヤジッドに提供した。
「お礼なら支配人とマニュに言うのね」
しかし、総シェフが訪れた際に、果物にカビが生えていることを指摘されてしまう。
ヤジッドには身に覚えのないものだった。
「星は獲得するよりも維持することのほうが難しい」
“Mr.パリ・ブレスト”として総シェフもヤジッドを買っていたが、この一件でヤジッドは解雇されてしまうのだった。
そしてヤジッドは嫌がらせを続けてきたスーシェフを殴った。
「これが目的だったのか!」
それからのヤジッドはバーで慣れないカクテルなどを作って生計をたてたが、そこでブシャールと再会した。
「パティスリーの出店で困ってらっしゃると聞きました」
ブシャールは確かにパティスリーの出店を構想中だった。
「世界選手権に出るためにキッチンを提供してください」と願い出るヤジッド。
「最高のパリ・ブレストの他に、私にどんなメリットが?」
「世界一のパティシエにいるパティスリーにできます」

何ヶ月もの間、ブシャールに提供された場所で修練を積んだヤジッドは、マニュとともに選手権予選会場に乗り込んだ。
マニュに調理道具を運んでもらったヤジッドは、一人、会場に向かう。
そのヤジッドにマニュは「勝て!」と声をかけた。
そして始まった選手権予選。
レンジを3台も使用するスタイルのヤジッドは、ブレーカーを落としてしまうトラブルなどがあったものの、フランス代表チームに選出された。
そしてチームとして乗り込んだ世界選手権。
ヤジッドは予選での飾り細工の腕を買われ、氷菓の氷の彫刻を担当することになり、ワシを作る予定だった。
チームで過ごす日々の中でも孤独を感じていたヤジッドは、里親のシモンから“いつも戦い続けてきたあなたを、親として応援に行きたい”という連絡を受け「来て欲しい」と返事をした。

世界選手権の会場は盛り上がっていた。
その中にはマニュが座り「勝て」と叫んでいた。その隣に座ってきたブシャールは、不思議そうにマニュを見ていたが、やがて彼がヤジッドの友人だと知る。
フランスチームは、次々とスイーツを作っていく。
そんな中、ヤジッドが氷の彫刻作業に入った。
途中までワシを形作っていたが、ふと客席に母親がいるように感じてしまい、ヤジッドは手を止めた。
そしてワシの頭部分を切り落とし、別のものを彫刻していく。
それは羽を広げる天使の姿。
突然のことにフランスチーム一同は一瞬戸惑うが、時間切れの合図では見事なスイーツが仕上がっていた。
そして順位が発表されていく。
3位ベルギー、2位日本。フランスチームは、1位に輝き2014年大会は終わった。
ヤジッドは、胴上げされ、客席で里親はその晴れ姿に涙を溢れさせていた。

ヤジッド・イシュムラエンの実話に基づく物語。
幼少期と青年期が交錯する構成の前半は、多少強引さがあるものの、ヤジッドの境遇が凝縮されている。
実際の母親はアルコール依存症であり、ヤジッドは2歳のころから里親に預けられていたらしい。
いずれにしろ育児放棄に近い状態だったのだろう。
劇中で母親が語るように“自分の生活もままならない”中で育児は無理だったのだ。
その後、8歳から養護施設で過ごしたヤジッドは14歳でパティシエの見習いを始めた。
この“施設”というのが、描写が狭いために何の施設なのか理解が追いつかなかったのだけれど、フランスではわかるのだろう。
寮長が“成人まであと2年”と語っていることから、この時ヤジッドが16歳であることがわかる程度。
実際のヤジッド自身がそうなのだろうけれど、一度持った目標を決して見失うことがない主人公で、どんな境遇にあってもパティシエになるという夢を追い続ける。
ドラマ的な要素で考えれば、目標を見つけ、挫折し、何かをきっかけに再び夢を追って叶えるというものだけれど、この作品のヤジッドは、決して諦めないままだ。
印象的なシーンは氷彫刻の題材を変更するシーンだったけれど、どのスイーツを作る際にも材料を見つめながらイメージを膨らませるシーンが素晴らしかった。
そこから作り出されるスイーツは、芸術的でありながら美味しそうなのだ。

この映画の公開に合わせて来日したヤジッド・イシュムラエンの記事によると、実際の生活の方がもっと大変だったようだ。
ホームレスをしながらパティシエの修行を積んだ日々には、作りたくないものも作らされたという。そんな苦難があったからこその成功なのだと語るヤジッド氏。
2014年の世界大会の時には22歳。
その後、自身の店舗を開きビジネス分野でも成功をおさめるが、現在も里親とは親しく交流を続け、エペルネにも通っているという。

僕はあまりスイーツに詳しくないのだけれど、序盤で語られるようにスイーツは味だけでなく、皿も含めての視覚効果、香りなどの要素が満足度につながるものだ。
もちろんこれは料理全般にいえることだけれど、スイーツは主食でない分、そういった要素が重要なのだろう。

劇中でブシャールが感動した“パリ・ブレスト”は、ヤジッド氏によると「パリで食べられる」と言っているくらいで、もちろん日本ではヤジッド氏の“パリ・ブレスト”は食べることができない。
それなのに、こんな風に描かれたら食べたくなってしまう。

ただこの作品の残念なところは、マニュが【ロッキー2】の話をした途端、ロッキーのイメージに引っ張られてしまうところだろう。
パティシエ版ロッキーにしたかったのかもしれないが、直接エピソードまで添えてしまうと、あまりにも有名なシーンのために、エイドリアンのイメージの方が勝ってしまい【ロッキー2】を観たくなってしまうのだ。

明日開催される調布大祭のため、上長淵の山車も準備されていた。
千ケ瀬町付近は、祭の飾り付けが行われ、各町会が山車の準備をしていて、なんだか華やいでいる。
青梅は本当にお祭りが多い。
日曜開催の調布大祭は、青梅に住んで7年、一度も見れたことがなかったので明日が楽しみだ。
青梅大祭のように千ケ瀬が人で溢れかえるとしたら、これは見ものだ。
先日観た『Ōmecittà(オウメチッタ)』で語られるように、ふだんは人があまり歩いていないのが青梅という場所だ。
こういったお祭りがあるのは、本当に楽しい。
楽しみといえば、来週にもある。
今日観た映画のような高級なスイーツではなく、ホットケーキを食べに行くのだけれど、誰と一緒に食べるかが大切。

早く会いたいな、とばかり考えながら過ごす一週間になりそうだ(笑)