アンネ=ゾフィー・ムター日本公演 | なおっちのバイオリン日記

なおっちのバイオリン日記

大人から始めたアマチュアバイオリン弾きの日記です。たまにテニスとフットサルの話も。2021.4横浜から静岡に転勤しました!

2月20日と23日の2日にかけて、アンネ=ゾフィー・ムターの日本公演を聴きに行きました。

 

 

 

アンネ=ゾフィー・ムター。

カラヤン随一の秘蔵っ子にして、ヴァイオリンの女王と称される、現在世界最高のヴァイオリニスト。

「この人の演奏は絶対ライブで聴きたい」と思い続け、ついに今月その機会が訪れました。

20日は東京のサントリーホール、そして23日は日帰りで名古屋まで遠征して聴いてきましたクローバー

 

 

彼女の通り名は、「ヴァイオリンの女王」。

よくイケメン奏者が出てくるとすぐに「ヴァイオリンの貴公子」とか言われますよね。綺麗な女性奏者なら「ピアノ界の妖精」とか(笑)

そういったキャッチフレーズを音楽業界が名付けたものが浸透する例は山ほどありますが、ムターはそうですね、やっぱり女王でしょう王冠2

女性奏者だとチョン・キョンファも凄い、五嶋みどりもすごい、諏訪内晶子もJJも庄司紗矢香もみんな才能豊かで素晴らしいと思うのですが、自分の中ではヒラリー・ハーンとムターのお二方は別格の存在なのです。

 

ムターの魅力は、なんといってもその艶やかな音。高弦も低弦も、どの音をとっても滑らかなつながりの中で素晴らしい美声を聴かせてくれます。

艶やかな音と言えば自分はオイストラフやパールマンが浮かぶのですが、この2人のような情緒豊かな音が好きな自分は当然ムターの奏でるヴァイオリンの音色も大好きなわけです。

 

そして、ステージ上での佇まいの見事さ。カラヤンの元で10代の頃から世界最高のオーケストラをバックに弾いてきた偉大なキャリアがあるわけですから、どんな場面でも浮足立つことがない。

デビューの頃から類まれな技術的完成度を持っていた彼女が、年齢を重ねると共に音楽的な深みを増し、ステージ上でこれだけ余裕をもって弾かれるのだから、本当に女王という名にふさわしい奏者だと思います。

 

今回、20日と23日のステージは同じラメ入りの黒いドレスでしたが、女王様!少しお痩せになられたのでは(笑)

自分は特に豊満なバディには興味ありませんが(笑)、今回のムター様は見事にシェイプされたウエスト。とてもお綺麗ですね。

昔、音楽の友という雑誌で「大きなリボンが似合う奏者」として一番にムターの名が挙がっていたことが思い出されますリボン

それにしても女性奏者のすごいと思う点は足元!ハイヒール。

プロのヴァイオリニストって、ここ一番ではステージをバンと踏んで音を出すじゃないですか。特に男性よりパワーで劣る女性奏者は必須なんですが、それをハイヒールでやるんですから、こういうとき女性は大変だ。

 

初めて彼女の演奏を聞いたのはNHK-FMのラジオです。ザルツブルク音楽祭でのカラヤン&ウィーンフィルとの共演で、曲はチャイコフスキーのコンチェルトでした。

そしていま、目の前で彼女の奏でる音を聴ける。最初にステージ中央へ出てくるあたりからもう鳥肌モノです。

彼女の立ち振る舞いは素敵ですね。上の写真もそうですけど右手ひとつで楽器の渦巻きと弓をもつ「ムター持ち」での堂々とした佇まいは、さすがの貫禄。

弾き振りもする彼女ですから、ベートーヴェンのコンチェルトの時は楽団のメンバーをのぞき込むような仕草を何度も見せてくれました。

 

彼女は演奏するとき、肩当を使いません。昔に比べて肩当も進化しているので今ではプロもほとんどの奏者が肩当を使いますが、「裏板から伝わる音が感じられない」として敢えて彼女やパールマンのように昔のスタイルのまま使わない奏者もたまにいます。

このため、彼女はテールピースの真上に中心が来るタイプの顎あてを使っていますが、パールマンは標準タイプの顎あてで楽器をしっかり固定できているんですよ。すごいですね。

 

それにしても、ムターの奏でるヴァイオリンは本当に美しい音がする。楽器自身がソプラノやアルトで歌っているみたいあじさい

 

たとえばヒラリーのヴァイオリンは「自分もいつかこういう風に弾けたら」という考えが全く起こらない。

音の1粒1粒から弓の処理に至るまで完璧で、天からの贈り物のような別世界のレベル。

 

一方でムターのヴァイオリンは「自分もいつかこういう風に弾けたら」という憧れを抱かせてくれる。

もちろん彼女のように弾けるわけもないのだけれど、でも、こんな美しい音で、力強く堂々と弾きたい・・・と思わせてくれる、永遠の目標キラキラ

 

彼女はもう56歳になるのですが、今回も素晴らしい演奏でした。

ヴァイオリン奏者は肩から先が柔らかく使えないといけないので、どうしても高齢になると体が硬くなって以前のようには弾けなくなってしまいます。ヴァイオリン奏者がピアノ奏者より早く引退するのもそのあたりの理由があるのかな。あの奇跡的な手首の柔らかさをもつパールマンでさえ、65歳の時のステージでは若い頃より腕全体にやや硬さが見られました。

 

↑その時の演奏会のチラシはこちら

 

60歳を超えて若い頃と同じように弾けるコンディションを保ち続けるのは、並大抵なことではないのでしょう。

ムターは精力的に演奏活動を続けていて、常に若々しい。これからも永く最高の演奏が聴けそうです(^^)

 

 

東京のステージでは、アンコールにバッハのサラバンドを弾いてくれました。

苫小牧でのキュッヒルさんのアンコールも同じ曲でしたが、彼のサラバンドは剛直な感じ。そしてムターのサラバンドは、ひたすらに美しい。

彼女はこのサラバンドを弾く前に

「今、日本や世界中でコロナウイルス(sick)が流行しています。日々つらい思いをしている、音楽を愛する友である皆さんへ、この曲が癒しとなれば」

 と語ってくれたのですが、その想いが込められた演奏。

 

聴いていて、気が付けば自分は涙を流していました。

前触れもなく、突然流れ落ちた一筋の涙。

号泣ではなく、スーッと・・・なんかドラマみたい(笑) 自分でもびっくり。

 

 

 

ムター様、こんな大変な時期に日本に来てくれてありがとう。

 

音楽は心を豊かにしてくれる。

今回も、素晴らしい2つの夜でした。星空