鳶職人の話 | ナオブロ リターンズ

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星屑ロンリネス

少し前に知り合ったマナブ君のお話
彼は鳶職人

の見習いを始めて半年になります。

彼の親方は実に厳しい人
と言うよりは普通に怖い人で昔ながらの頑固職人そのままといった感じ
気に入らない事はとりあえず怒鳴る。

怒ると物が飛んでくるのも日常茶飯事。

その親方の愛車の音が聞こえてくるだけで
周りが震え上がる気がするそんな人。

自分の手元にはさらに厳しくゲンコツ入れる事もあると言う。
そんな親方ですから

「僕この仕事向いてません!」

と一日で逃げ出す若者も続出。
酷いときは昼休みにそのまま行方不明になったヤツもいると言う。

新人が入る度に

「今回はどれくらい続くかね?」

と噂になる有様。

もちろんマナブ君にもそんな新人だった頃がありました。

鳶職と言えば現場の花形
ですが仕事の厳しさも半端じゃなくそれなりに覚悟も必要です。

キツイ、汚い、危険
更によりによって親方はその斜め上を行く鬼軍曹のような危険人物。

残念な事にマナブ君、高い所は苦手な上に力仕事はやった事が無い
なにかの罰ゲームで鳶をやってるんじゃないかという有様。

ところが彼は半年の間、休日以外仕事を休んだ事が一度もありません。

いつものように親方に

「マナブ!テメーはいつもトロいんだよコノヤロウ。さっさと持って来い!」

怒鳴られていたマナブ君

周りが見かねて

「大丈夫か?マナブ」
「そんなに持ったら腰悪くすんぞ。俺が半分持ってやるよ」

と言うと彼はこう言いました

「大丈夫す。これくらい皆やってる事っすから」

そして大量の材料を担いで親方の待つ足場へ向かう彼の瞳は
折れも、曲がりも、倒れもしない強い目
戦士の目をしていたと言います。

仕事が終わって彼と少しだけ飲む事がありました。

お前仕事きつくねーの?

「俺、鳶やってんすよ。」
「親方が厳しいのは当たり前っす。一歩間違えたら大怪我するかも知れないんすよ。」

彼は笑顔でそう言いました。

なるほど
確かにその通りかも知れない。

その親方は以前こんな事を言っていました。

「俺は人に頭を下げる事が出来ねえんだよ。だから職人やってんだ。」

仕事さえ出来れば誰にも文句は言わせねえ。
それが職人という生き方。匠の技にはそれだけの価値がある。

けれど人に物を教えるのは限りなく下手クソ
怒鳴る事でしか教える事が出来ない不器用な人。

「マナブなんて続く訳ねーよ、あんな根性無し」

嘘つけ
アンタそんな事思ってねーだろ
じゃあなんで彼に新品の道具揃えてやってんだよ。

世間を見てみりゃ履き違えたヤツがいくらでもいる
ゆとりだの根性がないだの、今時の若いモンは・・・なんて話も聞く
親の金、女の金で生きてていつか夢を叶えるなんて寝ぼけたヤツもいる。

だけど若くてもどんな仕事であっても
仕事に対して誇りと責任感を持って働いてるヤツもいる。
カッコいいってのはそういうもんだ。

いつも怒鳴られてもいつも一生懸命だった。
きっとそんな彼だから親方も目をかけているんだろう
そんな信頼関係があってもいい。

一回り以上年の離れた彼に俺は尊敬に近い感情を覚えるのです。

今度彼に会うのは半年後か、一年後か
その時は今より立派な職人になった彼に会うのを心から楽しみにしています。