お赤飯たかなきゃ。 -11ページ目

南国城攻め。

南国・沖縄にも城がある。


有名なのは首里城だが、かなり遠いので断念。

だが、ここ名護にも、ちゃんとお城があったのだ。


「行くっきゃないでしょ!」


別に城マニアではないが、お城に行くと不思議とテンションが上がるのだ。

大阪城に始まり、姫路、岡山、熊本、金沢、名古屋…。

五稜郭やチャペルココナッツも含めると、かなりの数になる。

僕のこのお城コレクションに、是非とも“名護城”を追加したいのだ。


穴があるなら入ればいい。  


「こ、ここか…」


やみくもにでも走ってみるもんである。

レンタサイクルに乗って適当に走っていたら着いてしまったのだ。


だが、この名護城の守りはなかなか堅そうであった。

そう。階段である。


穴があるなら入ればいい。  


「て、てっぺん見えねぇ~!」


典型的な山城であった。

だが、こんなことではへこたれない。

僕は目の前に出された料理はすべて残さず食べるし、

目の前に階段があれば、必ず上る質なのだ。


「よし!いーち!」


こういう時は、段数を数えた方がモチベーションを維持できる。


「にーの、さんまのしっぽ、ごりらのむすこ」

「なっぱ、はっぱ、くさったとうふ」


(まだまだ!)


「いーち、にーの、さんまのしっぽ!ごりらのむすこ!」


(まだまだ!)


「なっぱ!はっぱ!くさったとうふ!」


(こなくそ!)


「いーち!にーの!さんまのしっぽ!ごりらの…」


(はぁはぁはぁ…)


「なっぱ…はっぱ…くさった…」


(だ、だめかも…)


尋常じゃないほどに息が上がる。かなり足にも来ている。

あまりの苦しさに、思わず後ろを振り返った。


穴があるなら入ればいい。  


(げほぉげほぉげほぉ…)


息苦しいというか、完全に咳き込んでいる。

そういえば数日前から風邪気味だったのである。

それに背番号18を追いかけてダッシュした時に右足首を痛めていたのだ。


だが、こんなところで、こんな道半ばで諦める訳にはいかない。

城は、一度攻めると決めたら決して引くことは許されないのだ。


(ご、ご、ご、ご、ご)


「ご、ごりら!」


穴があるなら入ればいい。  


14頭目のゴリラと同時に、ようやく頂上に着いた。


かに、思われた…。


(なに!まだあるだと!)


穴があるなら入ればいい。  


まだ、あった。


さらに突き進む。

どんどん道が険しくなっていく。


穴があるなら入ればいい。  


(じゃ、じゃんぐる…)


ほぼ、ジャングルだった。


それでも僕は、前だけを見据え、頂上を目指した。

こんなところで息絶える訳にはいかないのだ。


(がんばれ!がんばれ!がんばんるだ!)


確かに苦しい。かなりしんどい。

だがこの辛さは、頂上に到着したときにすべて報われるはずである。

すべてを制覇した時の達成感と爽快感…。

頂上にそびえ立つ立派な天守閣が、僕に大きな感動を与えてくれるのだ。


(はぁはぁはぁ…、げほぉげほぉげほぉ…)


「やったべ!つ、つ、つ、着いたぁ!!」



(て、て、天守閣は?)



穴があるなら入ればいい。  




「ちっちゃ!!」




じっと手を見る。


穴があるなら入ればいい。


石川啄木。

南国フィロソフィー。

南国・沖縄には、基地があります。

言わずと知れた米軍基地です。


穴があるなら入ればいい。  


嘉手納です。


基地の是非を問われれば、僕は“非”でしょうか。

でも理想と現実が違うということも分かります。

戦後65年という歳月が、その両者をより難解で複雑なものにしている。

そのことも十分に理解できます。どうするにしても簡単なものではないでしょう。

ただそれでも、町の中心地に我が物顔で居座っているのを見ると、

決して良い気がしないことも、また確かなことです。



穴があるなら入ればいい。  



そんな南国・沖縄の町の中で、FT-510を見つけました。

しかし、戦闘機はあっても、電車がありません。

交通手段はもっぱら車。

沖縄の人は50メートル離れたコンビニにも車で行くそうです。

なので、旅行者はレンタカーを借りるのがおすすめです。


でも僕は今回、レンタサイクルです。

当然、周囲からの目も、そして扱いも良くありません。


穴があるなら入ればいい。  


「こんなことなら!」とバスに乗ろうとしても、なかなかやって来ません。


穴があるなら入ればいい。


1時間も待たされて、風邪気味になります。

さすがの沖縄も2月は寒いのです。


でもどんなに寒くても、子供たちは元気に遊びます。

穴があるなら入ればいい。  


ネコちゃんも遊びます。

穴があるなら入ればいい。  


ただ、ネコちゃんの愛想は良くありません。

ずっと知らんぷり。

ちょっと傷つきます…。




そんな南国・沖縄。

猫と子供と基地と戦闘機、そして太陽と海―。


これを、ひと言で表すのなら、こうでしょう。


穴があるなら入ればいい。  



てとりす。




南国ビニール傘。

南国にだって、雨は降る。

ていうか、かなりの頻度で降っている。


「おい…、またかよ…」


灰色の空を見上げながら、何度そうつぶやいたことだろう。


だが僕は、南国に雨具なんて持って来ちゃいなかった。

仕方がないので現地調達。

僕は100円ショップでビニール傘を買うことにした。

どうせ使い捨てるんだから安物で良いじゃない。


「かさかさかさか~さ、傘はどこだ~い?あ、みっけ!」

「どの色にしよっかなぁ?赤?青?黄色?」

「よ~し!こいつにしよう!」


しかし、例え使い捨てるつもりでも、お金を出して買うのだ。

どれでも良いという訳ではないし、買ったからには愛着もわく。

それに100円ショップと言っても、特別料金210円なのだ。

大事に使いたいものである。


「ありがとうございます~」

「いえいえ、ど~も、お構いなく」


(よ~し!早速、使ってみるかぁ!)


その時、僕は急いでいた。

急いでいたというか、疲れていたのだろう。

そう。店から出た瞬間だった。


(せいやっ!)


僕はビニール傘に付いていた値札を引きちぎろうとした。

値札と傘を繋いでいるプラスチックのリングを、力任せに引きちぎろうとした。

だって、邪魔だったから。それにハサミも持ってなかったから…。


「あ…」


穴があるなら入ればいい。  


“プラスチックリングvsビニール傘バンド”の対決は、あっさりと決着。

結果は予想外。勝者はプラスチックリング。

ビニール傘バンドは、いとも簡単に引きちぎられた。


「な、なんと…」


まぁ、使えるっちゃあ、使える。

だがもう、このビニール傘は、閉じようとしても暴れ放題である。

人間、印象というものは大事。それは持ち物でも判断される。

こんなだらしのない傘を持っている人間は、誰からも信用されない。

そういうもんである。


「えいっ!」  バッサバッサバッサバッサ

「えいっ!えいっ!」  バッサバッサバッサバッサ

「お願い、閉じてぇ…」  バッサバッサバッサバッサ

「あかん、ごっつ暴れはる。手がつけられん…」  バッサバッサバッサバッサ


「神様、頼みます…」 (頼むから、もう雨を降らさないでおくれ…)


南国の空を見上げながら、僕は祈ったという。