今回は、ウサギの話は話なんだけど、今までのポッチャリ・モフモフ
のウサギとは少し違うお話なんにゃ。
宮廷作家から上がってこないこないと思ってるうちに一年近くも経って
いたので、急遽アップしたにゃん。読んでくれにゃ(大王)
うさぎ兵の話(1)
私の名はヨーハス・クレンサム、この市壁に囲まれた街ワーザンブルタ
の第三守備隊の副隊長をしている。
守備隊と言ってもこの街のあるメジベルン王国の兵士ではない。
あくまでワーザンブルタの街から給料を貰いワーザンブルタの治安を
守るのが私の仕事である。
そもそもこの街の市民にメジベルン国民としての意識はほとんどない。
自由交易都市として発達したこの街は、その半数はメジベルン出身だが、あとは他の国からの
移民やその子孫である。私の幼馴染にして同僚のトニオの父親もロマナの出身である。
ワーザンブルタはメジベルン王家に多額の税を納める代わりに独立国家に近い権利と安全を保証
されている。国境にあるこの街にはどの国の者も入ることができる。ただし武器は持たないか
門番に預けるかすれば。この事によって商人は安心して商売ができ、「ワーザンブルタで手に
入らないものはない。」と言われる程の交易都市になったのである。
だから私も腰の剣を抜く事はほとんどない。そして一日の仕事を終え今は「黒猫と銀の兎亭」の
ベネリッタとコミレム酒の夕食で今日の疲れを癒しているところである。
丁度この酒場の娘レベッタが私のコミレム酒を持って来てくれたところである。まだ十歳かそこら
だが、店の名前に合わせて銀のリボンを兎の耳の様にして飾った可愛い子である。
「うさ公のくせに生意気だよな!」「ああ、亜人をのさばらしている街などはじめてだ。」
隣のテーブルから声が聞こえてきた。簡易型の皮の防具を身につけているところを見ると、
この国の傭兵に応募して来た他国の若者だろう。武器預かりのトラブルはそう珍しくない。
多分同僚のルチオの事を言っているのだろうと思い、守備隊員としてそしてワーザンブルタ市民
として、彼らに声をかけた。
「旅の人かい? この街ではあんまりラタニア人の悪口は言わない方が良いよ。」
「ラタニア人? あぁ、ウサギの亜人の事か。」「守備隊の人かい?」
「いやぁね、この街の事は一応聞いているから、あんたみたいな『人』が言うのならかまわないが、
どうも亜人に指図されるのはね。」
ワーザンブルタ以外の、この大陸での認識はそんなものだと分かっていたし、
それほど悪そうな人達でもなさそうなので、少し話してみようかと思った。
「私は、仕事も終わったし、もう少しコミレムをあけようかと思っている。」
「もし時間があるなら、ワーザンブルタの人が何故、ロマナ人を友と呼び、あなた達ラッセン人
の事も友人と呼んで、ラタニア人の事を親友と呼ぶか聞いてみるかい?」
「コミレムで良かったら、奢るけど。」
「えっ、俺たちも明後日までに、王都ベリタリカに着けばいいだけだから、今夜は酒でも飲むか
と思ってたところだよ。」「俺たちのザクートも飲んでくれよ。」
私はコムレム酒をもう一本注文した。