うさぎ兵の話(2)
「まず、どこから話そうかな。」
「この街の西の大門の先にある丘が白い丘って呼ばれているのを知ってるかい。」
「実際、あの丘は白くないし、季節で花が咲くとしても、エニシダがあるだけだから、
黄色なんだよね。それに一面って訳じゃないしね。」
「それも、十年程前にあった、この街の名前が付いた『ワーザンブルタの戦役』からなんだ。」
「その時私は、丁度守備隊に見習いみたいな感じで入ったばっかりでね。」
「私の父親が守備隊にいてね、そんな事もあって私と幼馴染のトニオがその年に守備隊に
入ったんだ。まぁ、まだ使い物にならない隊員だったわけだ。」
「そんな頃に、大陸一と言われるゲストバの軍隊がメジブルン王国に向かっているって言う
情報が入ったんだ。」
「ワーザンブルタは国境にある街だから、どうしても通り道になる。」
「ワーザンブルタの守備隊では、一国の軍隊とでは、比べるべくもないし、
ましてゲストバだ。」
「その情報が入るとすぐに、援軍の要請のために使者を送った。」
「まずは、メジブルンの王都に、攻められてるのはメジブルンだし、高い税を払ってるしね。」
「そして後は、交流のある幾つかの国や街に、こっちの方は期待薄だったけどね。」
「そうしてる内に、ゲストバ軍に囲まれてしまった。住民を避難させようかという意見
もあったけど、他の街へ移動しているうちに追いつかれる危険も大きかったので、
全員この街に残ったんだ。」
「私は一応守備隊の一員だったので、市壁の上の監視用の通路にいた。」
「ゲストバ軍は、全て竜兵で構成されていた。この大陸ではドラゴンの軍事使用は制限
されているけど、まぁ、戦争になったら制限もなにもないからね。」
「私は、この時初めて本物のドラゴンを見たけど、大陸中の全部のドラゴンを集めたんじゃ
ないかという程の数だった。」
「馬よりも一回り大きいラッドドラゴンに跨る竜騎兵、上空には飛竜兵、そして何よりも
私を驚かせたのは、恐らく攻城用の3体の巨大なラグノドラゴン。」
「ベリタリカの王城の城壁に匹敵すると言われるワーザンブルタの市壁の上部に届きそうな
大きさだった。」
「絶対に人の言うことをきかないといわれるラグノドラゴンを操っているところは、
ある意味ゲストバ人は凄いと思ったよ。」
「ワーザンブルタを素通りして、他へ行ってくれる様子もないし、
まぁ、完全なチェックメイトだったね。」
「そんな状況で少しぼーとしてたのか、いきなり隣に居た筈のトニオが消えた。」
「上空を見てやっと気が付いた。ゲストバ軍は一気にワーザンブルタに攻め入る事も
出来ただろうけど、その前に、住民をいたぶることに決めたらしかった。」
「飛竜が、トニオをその鉤爪に引っ掛けてゲストバ軍の方へ飛んで行った。」
「何人かの住民が飛竜兵にさらわれた。飛竜の爪と飛竜兵の剣を同時に相手にするのは、
傭兵上がりの屈強な守備隊員でもかなり苦戦していた。」
「私は幼馴染のトニオが心配で、トニオをさらった飛竜を目で追っていた。」
「そこで、飛竜が飛んで行く先にある西の丘が真っ白な事に気が付いた。」
「西の丘が整然と行軍するラタニア兵、私の父の言うところの『うさぎ兵』で
埋め尽くされていた。」
「ラタニア兵は、全て白い体色で、白金色の甲冑を身に着けていたので、西の丘が
真っ白に見えたんだ。」
「実際は、ラタニア人の体色は薄茶色の方がスタンダードらしいけどね。」
「使者としてラタニアに行った私の父以外ラタニア人を見たことのある人間は、
この街には、否、この国にも居なかったから、父から話を聞いた事のある
私でさえ、初めてうさぎ兵を見て驚いたよ。」
「一言でいえば、直立した、私たちより頭一つ分大きいうさぎだったからね。」
「そして、もう助けはないと思っていたところに、本当に来てくれたラタニアに
感謝したよ。」
「今でもラタニアとメジブルン王国には国交がない。ただ私の父との友情にこたえる
為だけに、ラタニアの女王は最強の軍隊を派遣してくれたんだ。」