Miss You More epi.8 | φ ~ぴろりおのブログ~

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イタズラなKiss&惡作劇之吻の二次小説を書いています。楽しんでいただけると、うれしいです♪ 

昨夜は遅くまで頑張って勉強をしたし、ベッドに入ってからもドキドキしてあまり眠れなかった。

新幹線の中で眠ってしまって、乗り過ごしたらどうしようって緊張してたけど、全然眠くならなかった。

もうすぐ神戸に着く。ドキドキするけど、もう怖くはない。


ふふっ。読んじゃおっかなぁ...膝の上でずっと握り締めていた携帯をまた開く。

ほんとはもう読まなくたって憶えちゃってるけど、うれしくて何度も読んでしまう。

周りの人がヘンに思うくらい、顔がニヤけてるのがわかるけど、そんなの気にしてられない。

このメールを読んで、入江くんが言った友達って言葉が信じられるって思った。

入江くんに会えたら、しっかり入江くんの話を聞いて、嫌だって思ったあたしの気持ちもちゃんと伝えよう。


シートに振動が伝わって、ブレーキがかかったのがわかった。

段々とスピードが落ちていく。見覚えのある景色がゆっくりと近付いて来る。

メロディが流れて、JRや市営地下鉄の乗り換えの案内が聞こえて来た。

ホテルに一番近いのは、市営地下鉄のみなと元町駅だから、三宮で一回降りないとダメなんだよね。

昨日から何度も確認したホテルまでの行き方を復習する。

新幹線がホームに滑り込む。

あたしは席を立って、降りるために並んでいる人の列に加わった。



新神戸から地下鉄に乗った。三宮までは一駅しかない。

このまま、もう少し乗ってたら入江くんの病院の最寄り駅なんだけどな。

早く来ちゃったから、ホテルのチェックイン時刻までは、まだ一時間以上あった。

荷物を預けたら、ハーバーランドをちょっとだけブラブラしようかなって思っていた。


入江くんの白衣姿見たいなぁ...近くに来ているから、どうしてもそう思ってしまう。

お盆休みは入江くんが帰って来てくれたから、入江くんの働いている姿を見たのは奈美ちゃんが入院していたときに病院に通った、あのときが最後だった。

どうしよう。ちゃんと待ってろってメールに書いてあったし...

でも、このチャンスを逃したら、一緒に働けるようになるまで、入江くんの白衣姿なんて見られないんだよね。

前と違って入江くんのいそうな所はわかってるし、こっそりちょっとだけ見て、すぐに帰って来れば大丈夫かな?


あっ...迷っているうちに、いつの間にか三宮の駅を過ぎてしまっていた。

これって、神様が行ってもいいよって言ってくれてるんだよね?

あたしは自分の都合のいいように考えて、入江くんの病院に行くことを決めた。



入江くんの病院に着いた。あたしの顔を憶えてる人とかいないと思うけど、俯きがちに歩いた。

入江くんの病棟に行くため、エレベーターホールに向かう。

土曜日だから午前中で受付は終わっているはずだけど、まだロビーには患者さんらしき人達がいた。

歩いていると売店が目に入った。ここで売ってる手作りマフィン美味しいんだよね。もう売り切れちゃったかな?

入江くんを待ってる間に、ホテルのお部屋で食べようかな。そう思って売店に入った。


真っ直ぐスイーツが並んでいる棚に進む。よかった、まだあった。マフィンに手を伸ばす。

「――入江先生と佐倉先生って、科が違うのによく一緒にいてはるよね。」

すぐ側で小声で話しながら買物をしていたナースさんが、入江くんとさくらさんのことを話し始めた。

聞かない方がいい。直感みたいに頭の中に警報が鳴る。でも、あたしの足は動かなかった。


「そうそう。ほんまに仲いいねんなぁ。なんか昔からの知り合いって聞いたわ。」

「そうなん?なるほどな。入江先生ってオーラがあるってゆうか、なんか近寄り難いやん?

けど、佐倉先生と一緒のときは、人間ぽいってゆうか、“素”って感じするなぁって思うてたんよ。」

「わかるわかるぅ。自然やもん。ああいう付き合いって憧れるわぁ。」

「ええなぁ、佐倉先生。入江先生と仲良うできて。」

「ほんま羨ましいわ。うちも仲良くして欲しい。」


買うものが決まったのか、ナースさん達は笑いながらレジに向かった。

何とか動けるようになったあたしは、何も買わないまま売店を出た。


そりゃそうだよ。部屋に泊めちゃうくらいなんだもん。仲いいに決まってるよ。

そうか。昔からの知り合いなんだ...あたしは知らないから、あたしよりも古い付き合いってことだよね。

入江くん、ベタベタしてくるの嫌がるから、すごくサッパリしててサバサバした男っぽい人なのかも。

あたしは自分に言い聞かせながら、さっき通ったばかりの道を戻った。

いま入江くんの顔を見たら、泣いてしまいそうだった。


ガタッ...引き摺っていたキャリーバッグが何かに引っ掛かった。

振り返ると、小学校の低学年くらいの男の子が車椅子に座っていた。慌てて駆け寄る。

「ごめんね。痛いところない?大丈夫?」

「全然平気。気にせんとって。」

男の子はニッコリ笑ってくれた。

「ほんとにごめんね。」

「お姉ちゃん。ボーッとしとったらあかんで。」

謝るあたしをやさしく叱るみたいに言う男の子。


「そうだね。ちゃんと気をつける。本当にごめんね。」

「どうかされましたか?」

もう一度謝っていると、白衣を着たキレイな女の人に声を掛けられた。

「さくら先生。」

男の子がうれしそうな顔で、その人を見上げる。思わずネームプレートを見た。

小児科Dr.吉野さくら...こ、この人が、さくらさん。


「なんもないよ。僕の車椅子とお姉ちゃんのバッグが引っ掛かっただけ。」

「そうなの?」

さくらさんが確認するように男の子とあたしの顔を見る。

「そうなんです。すみませんでした。失礼します。」

あたしは目を伏せたまま早口で言うと、逃げるようにその場を離れた。


~To be continued~