Through Glass vol.21 | φ ~ぴろりおのブログ~

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イタズラなKiss&惡作劇之吻の二次小説を書いています。楽しんでいただけると、うれしいです♪ 

通りに出てタクシーを拾い、一旦会社に戻った。

優先順位の高いものから次々に仕事を片付けて行く。

どうしても今日中に琴子に会いたい。琴子に会う時間を作りたかった。


琴子に会うといっても、引っ越し先が俺にはわからない。

琴子からの手紙には当然ながら、新しい住所の記載はなかった。

オヤジ達も落ち着いたら連絡するからと言われたらしく、新しい住所を知らなかった。

ふぐ吉を訪ねておじさんに訊くことも考えたが、簡単に教えてもらえるとは思えなかったし、今日は確か定休日のはずだ。

琴子に会うためには、大学で捕まえるしかなかった。



正門前でタクシーを降りる。並木道を走り抜けて、まずは中庭のテニスコートに向かう。

フェンスに張り付くようにして捜しても、コートの中に琴子の姿はなかった。

球拾いをしているのではないかと、コートの隅から隅まで目を走らせていると、松本に声を掛けられた。


「どうしたの、入江君?久しぶりね。お見合い相手とは――」

「元気そうだな。琴子は来てないのか?」

松本の言葉を遮り、訊きたかったことを訊く。

「来てないわ。最近忙しいのか、練習はサボりがちよ。」

松本はそんな俺に文句も言わず、問いかけるような目をしながら、質問に答えてくれた。

「そうか。悪い。急いでるんだ。」

「ふーん。頑張ってね。」

すぐに駆け出そうとする俺に、松本はからかうような微笑を浮かべて、ヒラヒラと手を振った。



文学部の校舎に向かって走る。

5限目の講義を受けていたとしたら、まだ終わったばかりの時刻だ。

見知った顔に声を掛けられる度に、琴子を見なかったか尋ねたが、琴子の居場所はわからなかった。


文学部の校舎に着いた。

校舎から出てくる学生達の中に、琴子の顔を探す。

「あーっ。入江君。どーして、ここいるの?」

「大学辞めたんじゃないの?」

その騒々しい声には聞き憶えがあった。

声がした方を見ると、いつも琴子と一緒にいる友達が俺を見上げていた。


「辞めた訳じゃないけど。琴子とは一緒じゃないのか?」

「琴子?さっきまで一緒だったけど、3号館に用があるって言うから別れたの。」

「琴子に何か用事なの?だったら急がないと、琴子、ふぐ吉に行くって言ってたから。」

そうか。いいことを聞いた。もし会えなかったらふぐ吉に向かえばいい。おじさんとももう一度ちゃんと話がしたい。


「そうそう。金ちゃんと約束してるって言ってたから、今日あたりプロポーズの返事をしに行くんじゃないの?」

金之助と約束?プロポーズの返事をしに行く?...本当に金之助が琴子にプロポーズしていたのか。

「そうかも。最初は寂しさまぎれにつきあってたみたいだけど、いまはちゃんと金ちゃんのこと考えてるみたいね。」

いまはちゃんと金之助のことを考えてる...まさか、本当に金之助のことを...


「琴子にも負けない6年越しの恋だもんね。」

「琴子が一番に結婚することになったりして。」

「でも、入江君。琴子が一生懸命好きだった事、青春の1ページに刻んであげ...あれ?入江君は?」



気が付いたら、琴子がいるという3号館に向かっていた。

早く琴子に会いたい...会って確かめたい...俺は駆け出していた。


よかった...いた...開いたままの入口から教室を覗くと、一人でぽつんと座っている琴子の後姿が見えた。

3号館は全学共通教育棟だ。3号館と聞いて、すぐにこの教室にいると思った。

パチン...教室の電気を消す。一瞬で教室は闇に包まれた。

「な、なに?停電?」

琴子の不安げな焦った声が聞こえる。


少し経つと、外からの明かりも届くし、目も慣れてきた。

鳥目の琴子には真っ暗に感じられるかもしれないが、俺にはしっかりと琴子の姿が見えていた。

教室の座席は階段状になっている。琴子は何も見えない所為か、動くに動けないようだった。

ゆっくりと足音を忍ばせながら琴子に近付く。トクトクと心臓の音だけがやけに耳についた。


静かに琴子の隣りに座る。小さく椅子が鳴った。

「誰っ?」

琴子がビクッと身体を震わせて言う。

「俺だよ。」

「え?...い、入江くん?...どうして?」

琴子の目が大きく見開かれたのがわかった。


~To be continued~