二日目は、開園から閉園近くまで一日中USJで遊んだ。昨夜遅くまでおしゃべりしたのに私たちはすっごく元気だった。
絶叫系ライドではキャーキャー叫びまくった。出口で売っているいつの間にか撮られてしまった写真を見て爆笑した。
何だかUSJは濡れるアトラクションが多めな気がする。ウォータースライダーにもポンチョを着て服のままチャレンジした。
やっぱり濡れちゃったけど今日はいいお天気で寒くないし、大きな熱風の出る装置があってその前にいたらすぐに乾いた。
ショーを見たり、映画と同じ恐竜の化石があるレストランで食事をしたり、何もかもピンクのカフェでスイーツを食べた。
パレードも見た。スヌーピーもピンクパンサーもウッドペッカーもいたけど、キティちゃんもいたのが謎だった。
一日中笑ってた気がするくらい本当に楽しかった。3人で花火を見てホテルに戻った。
昨日と同じようにお風呂に入ってから電話を掛けた。
予告通り私が送った大量の写メに入江くんは呆れたように笑っていた。
電話で話す入江くんは何だかやさしくて、調子に乗った私は入江くんに何でもないことのように聞いた。
「入江くん、私がいなくて寂しい?」
『何言ってんだか...』
入江くんが私の期待通りの答えをくれるなんて思ってなかった。
いつも通りの答え...でも、それが入江くんらしくて私はうれしくなる。
「私はね..すっごくスッゴク楽しくて..本当に来てよかったって思うけど...入江くんの顔が見られないのは寂しいよ。」
素っ気ない俺の答えに一瞬黙った琴子がゆっくりと噛み締めるように言った。
いつも通りの答え...素直に気持ちを表す琴子が可愛くて堪らない。
『...バカだな...明日には会えるだろ?7時過ぎには東京駅に着くんだよな?気をつけて帰って来いよ。』
そうだ。明日には会える...寂しいと呟いた琴子をすぐにでも抱き締めたい気持ちを宥める。「うん。待っててね。」
『ああ。待ってる。』
琴子...早く帰って来いよ。
「ちょっと琴子ったら、何ぼーっとしてんのよ。」
じん子に声を掛けられ、切れた電話を握り締めて入江くんとの会話の余韻に浸っていた私はわれに返った。
「なに?なに?なにーっ??甘い言葉でも囁かれちゃったわけ?」
じん子が興味津々といった感じで迫ってくる。
「いや。そんなんじゃないよ...入江くんと電話で話したことあんまりないし...ちょっとジーンとしちゃって。」
「そっかぁ。同じ家に住んでるのに電話する必要ないもんね。」
「これからも一緒だし、入江くんは出張とかに行ってもマメに連絡くれるタイプじゃないでしょ?貴重な体験だったかもね。」
私の言葉に二人が納得する。確かに理美が言うように本当に貴重な体験かも。
「何回も言ってるけど、ほんとに琴子、結婚しちゃうんだね...結婚してもたまには遊ぼうね。」
「もちろんだよ。私こそ、これからもご飯とか誘ってね。ずっと仲良くしてよぉ。」
少し寂しそうに言うじん子に笑って言った。
「でもさ、琴子だけじゃなくて私たちだって社会人になったら仕事があるから、いままでみたいには遊べないよ。
私さ、この2日間すっごく楽しかったけど、ちょっと切ないっていうか何かヘンな感じだったんだ。」
「わかるよ。なんかさ、一緒に過してる時間がすっごく大事って言うか...」
理美の言葉にじん子が大きく頷いて言った。
私もうんうんと首を振った。二人が昨日から感じていた気持ちを言葉にしてくれたって思った。
「そうなのそうなの。高校で同じクラスになってからずっと一緒だったじゃん。琴子は大学に入って学科が違ったけど、専門課程以外は一緒に取ったし、学食で一緒にご飯食べたり、一緒に寄り道したり...
3日以上まったく顔合わさないなんてなかったでしょ?
それがさ、卒業式はまだだけど大学行かなくなった途端、約束しなくちゃ会えなくなって...
こうやってずっと一緒にいられる時間なんてもうないのかもしれないと思ったら...やだ、琴子泣かないでよ。」
目の前のベッドに腰掛けていた理美が慌てたように隣りに来る。私の肩をとんとんと優しく叩く。
「卒業したらそうなっちゃうんだよね。そんなに仲良くなかったらさ、偶然会わなかったら卒業してそれっきりってこともあるんだよね。高校でもそうだったじゃん。F組のみんなは違うけど、A組の人とかそれっきりになった人ばっかだよ。」
「そうだね。A組はそうだよね...琴子、よかったね。入江くんに想いが届いて...ずっと一緒にいられるね。」
理美が私の肩をゆっくりと叩きながらやさしく言ってくれた。
「うん。ありがと...さっきね...ひっく...私が『待っててね』って言ったら、『待ってる』って入江くんが言ってくれて...
私が帰るところには入江くんがいるんだな...ふえっ...入江くんが私の帰る場所なんだなって...ぐすっ...
しあわせで胸がいっぱいになって...いつも励ましてくれてありがとう...これからもずっと友達でいてね。」
「当たり前じゃん...琴子がもっともっと幸せになれるように応援してるから...
琴子がどんなに入江くんを想ってたか、私たちが一番知ってるもん。」
泣きじゃくる私にじん子が涙声で言う。
もう一度ありがとうって言いたかったのに、涙が溢れて何も言えなかった。
最終日は、大阪駅のコインロッカーに荷物を入れてから大阪城に行った。
本物のお城に入ったのは初めてだった。本当にお殿様やお姫様が住んでいたなんて不思議な気がした。
金ちゃんが「東京タワーに負けへん」と言っていた通天閣に行った。何だか可愛いビリケンさんの足を掻いて願い事をした。
じゃんじゃん横丁で二度付け禁止のくしカツも食べた。金ちゃんが薦めるだけあって本当に美味しかった。
それからお土産を探しながら心斎橋をブラブラした。グリコの看板が見える戎橋の上でも写真を撮った。
金ちゃんの実家のたこ焼き屋さんにも行った。お父さんもお母さんも笑っちゃうくらい金ちゃんにそっくりな顔をしていた。
金ちゃんが電話をしてくれていたから、食べきれないくらい色んな種類の美味しいたこ焼きを食べさせてもらった。
すごく面白くて、すごくやさしくて...やっぱり金ちゃんそっくりなお父さんとお母さんだった。
アメリカ村にも行った。お腹一杯だったはずなのに古着や雑貨を見ているうちに小腹が空いてきて、アイスドッグを食べた。
手の平サイズの揚げパンにソフトクリームが挟んであって、初めて食べたけど熱さと冷たさが絶妙でメチャうまだった。
2泊3日の卒業旅行はあっという間に終わってしまった。
盛り沢山で本当に楽しかったし、きっとずっと友達でいられるって思った。
帰りの新幹線では2日間あんまり寝てなかったから3人ともずっと寝ていた。
時々目が覚めたけど、理美に起こされたときはもう品川だった。
来たときと同じように渋谷駅で別れた。何だか名残惜しくて、「1、2の3」で自分が乗る電車のホームに向かった。
じん子と理美と別れて寂しかった気持ちは嘘じゃない。
それなのに、電車が大蔵駅に近付くごとに入江くんに会えるうれしさがどんどん溢れ出す。
ドキドキと胸が高鳴る...もうすぐ...もうすぐ...入江くんに会える。
駅に着いた。気持ちはもう走り出す。荷物が重くて身体がついていかない。
気ばかりが焦る...はやく...はやく...入江くんに会いたい。
~To be continued~