Everytime You Go Away vol.12 | φ ~ぴろりおのブログ~

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イタズラなKiss&惡作劇之吻の二次小説を書いています。楽しんでいただけると、うれしいです♪ 

日勤についた。深夜勤務の看護師から申し送りを受ける。加藤さんは、あのまま朝まで眠ったようだ。少しホッとする。

私は通常通りの勤務をこなした。遅めの昼食を取っているとPHSが鳴った。

食事が終わったらナースステーションに戻り、師長と一緒に睡眠医療科に行くように指示を受けた。

言われた通り、師長と一緒に睡眠医療科に向かった。人の好さそうな笑顔を浮かべた中込先生が待っていた。

「忙しいのに悪いね。師長からは話を聞いたんだが、入江さんに確認したいことがあって。」

「何でしょうか。」

「加藤さんの異常行動の件なんだが、レム睡眠行動障害の場合は、夢と同じ行動をとっていることが多くてね、

 患者は夢の内容を覚えていることが多いし、異常行動中に声を掛けられたりしたら、比較的簡単に覚醒するんだよ。

 加藤さんは、睡眠状況の問診によると『夢も見ないでぐっすり眠れた』と答えてるんだ。となると、睡眠時遊行症、

 夢中遊行症が考えられる。この場合は、本人に異常行動中の記憶はないし、起こそうとしても覚醒しない。

 そして通常、例え患者が話していても一方的なもので、正常な会話は成り立たないはずなんだ。

 加藤さんは昨夜君と会話したそうだね。会話の内容を教えてもらえるかな。」

「はい。加藤さんは私を亡くなった婚約者の美優さんと思っているようでした。ずっと探していたと言っていました。

 ベッドに戻ってから、私にも入るように言われたので、眠るまで見ておく、怪我をしているから危ないと言いました。

 加藤さんはそうだねと言い、眠ってもどこにも行かないでほしいと言いました。私が頷くと安心したように眠りました。

 会話が噛み合わないとか、不自然なところは特にありませんでした。」

「なるほど...そうですか。入江さん申し訳ないが今日も準夜勤についてもらうことはできますか。

 加藤さんの異常行動が起きた時に、もう少し会話を続けて欲しいんです。

 師長も少し加藤さんに話しかけて反応を確認した後、昨夜と同じように入江さんについていてもらえますか。」

「はい。わかりました。入江さんもいいですね。」

「はい。中込先生、加藤さんを治してあげてください。お願いします。」

「まずは加藤さんの症状が何なのかはっきりさせなければ、治療方針も何も決まらないからねぇ。

 しばらく無理をお願いすることになるかもしれません。入江さんも大変でしょうがよろしくお願いしますね。」

「はい。わかりました。」

私はすぐにお母さんに連絡をとった。急遽、準夜勤につかなければならないこと、しばらく準夜勤が続きそうなこと、

心配しなくていいということを伝えた。お母さんはお弁当を持っていくからと言ってくれた。

手早く入江くんにもメールを打つ。

『入江くん、プレゼンは上手くいったよね。よかった。

 私は準夜がしばらく続きそうなの。

 長くなるから帰って来てから話を聞いてね。

 明日もたぶん帰りが遅くなるから、先に寝てていいからね。

 入江くん、大好きだからね。はやく逢いたいよ。』


午前0時...ナースステーションには師長と私と真里奈がいた。

キュ パタ キュ パタ キュ パタ キュ パタ

松葉杖の滑り止めのゴムとリノリウムの床が擦れる音とスリッパの足音が交互にする。きっと加藤さんだ。

加藤さんは、真っ直ぐ迷うことなくナースステーションに向かってきた。

「美優、やっぱりここにいた。」

「加藤さん、加藤さん、師長の細井です。わかりますか。」

「美優、何してるんだ。はやく行こう。」

「加藤さん、ここはナースステーションです。わかりますか。」

「私、まだここでやらなくちゃいけないことがあるの。」

「じゃあ、ここで待ってる。」

「加藤さん、加藤さん。ご自分の名前を言ってみてください。」

「寒いからいいよ。先に戻ってて。」

「いい。ここで待ってる。だから早く終わらせて。」

「加藤さん。ご自分の年齢がわかりますか。」

「わかった。急いで片付けるよ。」

「うん。美優、待ってるから、一緒に帰ろうな。」


「終わったよ。」

「行こう。美優。」

私は立ち上がって、加藤さんにゆっくりついて行く。加藤さんは、自分のベッドに入った。今日も隣りを半分空けて言う。

「美優。おいで。」

「眠るまで見てるから、ゆっくり休んで。はやく怪我を治さなきゃ。」

「そうだね。おやすみ。お願いだから、もうどこにも行かないで。」

私は黙って頷く。加藤さんは幸せそうに笑って目を閉じた。今日もすぐに寝息が聞こえ始めた。

ドアの外の師長に目をやる。師長が手招きをした。パイプ椅子から立ち上がり、二人でナースステーションに戻る。

「あなたしか見えてないみたいね。」

「私というより美優さんしか見えてないんだと思います。」

「哀しいわね...」

私と師長は顔を見合わせ、お互いそれきり何も言わなかった。


~To be continued~