「えーっ。今回のテストの結果で、足切りを決めることはみんなも知ってたと思う...
で...君らの点数なんだが、思いのほかすばらしかったので、数人を除いてはほぼ全員安心してよろしい。
あー、池沢。池沢金之助はわたしと進路指導室に来なさい。」
「お...おれだけ。」
「早く来なさい。」
...だから、意地はんないで、一緒に来ればよかったのに...ひゃ~ 本当はおれも、あの運命だったかね...
「金ちゃんには、悪いけどよかった~~っ。」
「本当だ。あーっ。親が泣いて喜ぶわぁ。」
「でも、これも、それも...」
「「「「「「「 入江君のおかげよねーっ。」」」」」」」
「ねー、入江君になんかプレゼントしない。みんなでお礼にさー。」「そーね。いいわー。」
...プレゼントかぁ。そーよねー。もーすぐ、クリスマスだし...私だけでも、あげたいな...
いっつもお世話になりっぱなしだし..ね。それに、明日から試験休みだし...
とはいっても、入江くんが欲しいものなんて...好きな人の好きなものもわからないなんて...情けないよね...
そうだ!手編みのセーターは?...1年かかっても、エリとそでがせいぜいね...
手作りチョコは?...でも、好きかな...バカだな、私って...何が欲しいかさっぱりわかんない...
私にできることっていったら、肩をもんであげることくらいかな...そうだ!!あった!!
...そうよ!!これっ!!低周波マッサージ器っていうの...いいかもいいかも♪
値段は...うっそぉ。こんなにするの?!...お小遣い全然足りないや...これじゃムリだな...どうしよう...
「ヘイ。らっしゃい。何にしましょっ。」
「おれ牛丼大盛り。」
「ヘイ。牛丼大盛り二人前。味噌汁一人前。」
「ほー。威勢のいい姉ちゃんが入ったな。こりゃ、いーや。牛丼小町だね。」
「おじさんうまいなー。じゃ、明日も来てね。」
「おっ、こりゃ、まいったな。わははは。」
...でも、入江くんにだけには、見られたくないわね...この姿。
「大盛り、お待ちっ。」
「いーよな、おまえは。今回ももちろん満点でトップ。学校始まって以来の全教科満点で卒業する生徒らしいぞ。」
「あぁ。」
「おい。そーいや、今回のF組の試験結果がすごかったの...お前の力なんだろ。
それじゃ、お前がその気になったら、F組のヤツ、全員を100番以内に入れられるな。」
「...バカ言えよ。」
「ほんとだよ。」
「なー。腹減ったな。何か食わない?」
「あぁ。何でもいーよ。」
「それじゃあ、近場で美味いとこは...やっぱ夢沙士スパゲティかな...んっ、なに?牛丼食いてーの?どうした?」
「いや...」
「あ...あれえ。あの子、お、お前の―」
「しっ。」
「おいおい。牛丼屋の店員だぜ。勉強もしないで、バイトかよ。」
「らっしゃい!何にしましょ。」
「すっげー、はまってんな。彼女。」
「...。」
...なんで俺、こんなとこ一人で来てんだ......あいつに見つかったらマズイよな...
「コトちゃん、来たよー。」「らっしゃーい。おじさん大盛り?!」「オウ、味噌汁もね。」
「今日も元気いーね。コトちゃんは。」「はーいっ。大盛り二人前。」
必死で頑張って働いても大した稼ぎにはならないのに...バカだよな...もう帰ろう...
...せっかく稼いだ金だって、どうせあっという間につまんないことに使っちゃうんだろ...
まったく...オンナって、いったい何考えてんだ?...わかんね...
12月25日クリスマス...
「帰ってきたわよ。急いで。」「いい?入江君がドア開けたら、セーノで...よ。」「きたきた。セーノで...」
「「「「「「「「「「「「「「「 メリークリスマス!入江君!!」」」」」」」」」」」」」」」
「あ、あれ?おどろかないねー。」
「琴子、あんた、しゃべったんじゃ。」
「しゃべってないよー。」
「驚かせたかったんなら、玄関の山のよーなクツを隠しとくんだったな...じゃ、ごゆっくり。」
「まっ、待って。入江くん。えっとね。F組のみんなが入江くんにお礼がしたいって、終業式の帰りに集まったの。」
「F組みんなからの気持ちです。どうぞ!!」
「ヘェ。それはどうも。」
「ねっ。あけてあけて。」
「な...」
「金ちゃんにナイショで、みんなで作った琴子人形よっ。」
「...悪いけど、全然うれしくない。」
「ひっ、ひどーい。」
「捨てちゃえ、お兄ちゃん。」
「あの、私からもえっと、入江家のみなさんにクリスマスプレゼントを。いつもお世話になっているお礼です。」
「これがイリちゃんおじさんに。これがおばさん。これが裕樹くん。」
「まぁ、パパ見て。この可愛いエプロン♪」「わしはバスローブだ。」「なんでぼくが〈もっと絵が上手くなる本〉なんだ。」
「い..入江くんには、は..はい。よ...よろこんでもらえるかな。」
「また..お前の人形じゃないだろうな。」
「ち、ちがうわよ。」
「ふん......」
「なにそれお兄ちゃん?」
「低周波治療器。」
「肩もみ器よー。」「なんてムードのないっ。」「信じられないわ。琴子の感覚。」「もぉ..バカじゃないのぉ。」
「えっ?えっ??そ、そお?そお??」
「じじくせ。」
「気に入らなかった?...」
「あら、琴子ちゃん。これって高かったでしょ。」
「えっ、いえ...一週間バイトして...やっと買えたの。でも、気に入らなかったら...別にいいの。気にしないで。」
...これ買うために、バイトしてたのか...俺がよく自分で肩もんでたから...なんでそこまで...俺のために...
「まーっ。それで毎晩遅かったのね。何のバイトだったの?」
「え...あっ...レ、レストランのウェイトレスです。」
「...。」
...なんで、ほんとのこと言わないんだ...やっぱり恥かしいのか...
「これは琴子ちゃんに。」
「えっ、えーっ。私にですか。」
「パパと私からなの。」
「わー、素敵な写真立て。」
「で、お兄ちゃんは琴子ちゃんに...」
「あるわけないだろ。」
「だろうと思ってね。考えといたわ。お兄ちゃんからのプレゼントは、琴子ちゃんとベッタリ2ショット写真なんてどお?
写真立ての中身にね。」
「えっ。えーっ!!ひ、ひえ。そ、そんな、ベッタリなんて...入江くん、嫌がりますよ。」
「あら、いーじゃない。写真くらい。」
「おばさん、いいんです...入江くんがイヤなのに、無理強いしないであげてください。」
「いいよ。そのかわり、絶対一枚だけにしてくれよ。」
「まー、お兄ちゃん。ス、ステキ。いーわよっ。」
「こいよ。」
「は、は..いっ。」
「これでいー?」
きゃーっ!!入江くんが私の肩を抱いてる...ドキドキがとまらないよぉ...赤面するなって方がムリだよーっ..
「き、きゃーっ。い、いーわ。お兄ちゃん、サイコー。そ、そのままよ。」
...ど、どーしちゃったんだろ。い、入江くん...手が...肩が...顔が...こんなに近くにあるなんて。
入江くんの息まで聞こえる...こ、こんなこと、や、やってくれるなんて...キ..キセキ?
「琴子ちゃん、笑ってーっ。」
...こいつ、真っ赤になっちゃって...こんなことくらいで...おもしれーっ...もうちょっと、からかってみるか...
「なぁ...教えてよ。」
「え...えっ??」
「〈ヘイらっしゃい〉っていう、大声の出し方をさあ。」
「えっ!!うそっ。」
「こっ、琴子ちゃん!!」
「なかなかいい声だったぜ。もう一回、言ってみてよ。」
...おばさん、怒ってたなぁ...思わず入江くんから離れちゃった...1枚だけだったのに...
でも、入江くんが触れた肩が...なんだかまだ熱いよ...
~To be continued~