塾の近くにコンビニがある。
私は適応障害になる前は、塾内で休憩をとっていたから、毎日コンビニを利用していた。店員さんになれるくらい、商品を覚えてしまっていたくらいだ。
新商品を見ると、すぐに試していたものだ。
息子も同じように利用しているが、息子は商品ではなく、店員さんと仲良くなった。いつもいる、お母さんのような店員さんは、店長さんかもしれない。
わりと昼間から夜まで、長い時間働いている。
息子は、店員さんと仲良くなると、たまに袋などをおまけしてくれると、ありがたがっていた。
「コンビニで、そんなことしてくれるの?」
なぜそこまで店員さんと仲良くなれるか分からないが、やがて息子と買い物に行き、私も息子を通して店員さんと仲良くなることができた。
息子は、外の世界に出ると、人付き合いが上手だ。私はどちらかと言えば苦手なタイプ。人見知りをして、心を閉ざしてしまう。息子を通して人の輪が広がるような経験を、これまで何度かさせてもらった。
コンビニエピソードは、様々ある。
高校2年だった息子は、ある日、塾で自習をしている先輩がいつも同じ時間にコンビニに行くことに気づいたようだ。なぜだろう? と思って跡を追うと、20時近くに、お弁当の値下げがあることに気づいた。皆、できるだけ節約を心がけながら、学んでいたのだろう。いつしか息子は真似をするようになった。
「お弁当争奪戦」に慣れた息子は、「先輩ごめん」と心の中で叫びながら、先輩よりも数分先にコンビニに駆け込み、格安お弁当を先に手にしたこともあった。
またある日は、学校の家庭科の授業で、「安くてヘルシーな献立」を考える宿題があったが、息子は宿題の献立として、「20時頃にコンビニへ急ぎ、半額弁当と野菜ジュースを買う」という、「ワンコインメニュー」を考えたこともあった。
献立を書いたレポート用紙には、「半額」と赤い文字で書かれたシールが貼られるお弁当の写真が添えられている。
「『夕飯がコンビニ弁当?』って驚く子がいるけど、コンビニ弁当って悪いものじゃないよ。もっといいものだって言いたかったんだ」
息子なりに伝えたいことがあり、宿題として提出していた。
息子の浪人が決まった頃、コンビニに行くと、私はどこか心がそわそわした。店員さんに、息子のことを聞かれるかな? と思うからだ。触れてほしくないな、と思うと、自然と足が遠のいてしまっていた。
数日前、息子と話をしていた際に、店員さんの話題になった。
「店員さんに最近何か聞かれた?」
私が問うと、息子は、
「またあと一年になっちゃったんですよ〜」と自ら話をしたそうだ。
店員さんは、
「最近、ずっと見なかったから、いなくなったのかな? って思ってたのよ。あと一年会えるなら、私は嬉しいけど」
温かな反応だったという。
息子は、何も言わずに去るつもりなんてなく、大学合格を報告に行き、ご挨拶するのを楽しみにしていた。今年は叶わなかったが、優しさをかけてもらえたようだ。
今は、ドライな関係が多い。
買い物は、機械に向かって黙って支払う。その方が煩わしさがなくていい。
それでも、人は、人とのコミュニケーションを必要とするのかもしれない。
「勉強って、塾の中だけでやってるんじゃないんだよ。周りの人に助けられて、成り立ってるんだよね」
息子の言葉を聞いて、店員さんの存在も、息子の受験勉強に必要なのだと伝わってきた。
事情を理解し、私にもわざと声をかけてこなかった店員さん。無言の思いやりがありがたい。
来年こそは合格して、息子とご挨拶に伺いたい。
きっと一緒に喜んでくれるだろう。