息子は小学2年生の頃、毎日腹痛に悩んでいた。
合わない場所にいると、人は何かしらのサインを得る。息子のサインは腹痛だったのだろう。



ある日、息子はいつもより学校からの帰りが遅く、何となく違う空気を感じた。  
「何かあった?」
息子に聞くと、どうやら息子は物を壊してしまったらしい。



ある雨の日、お店の駐車場の前に、チェーンのようなものがかけられていたようだ。
「ねぇ、ちょっと来て!」
息子が女子たちの声のほうへと向かうと、その壊れたチェーンのようなものを手渡された。息子が握ると、
「◯◯くんが壊したんだよね。直してね」
唐突に言われたそうだ。



当時の息子は、心は優しいが、自分を守ることができなかった。女子たちは足早にその場を去った。



雨にぬれながら、長い時間、一人で佇みながらそのチェーンを直そうとしていたようだ。息子からその話を聞いて、まずは確認しに行くことにした。



見ると、もう壊れても仕方がない状態だったことが分かった。たまたま女子が身体に触れて、チェーンが切れたかもしれない。
「これは、劣化もあるなぁ。大丈夫だよ。お店の人も古いからって分かるんじゃない?」
店が休みだったから、その日はどうしようもなくて、そのまま帰ってきた。



たまたま家にいた元夫と3人で、その状況をどう切り抜ければよかったのかを考えた。
「いちばんよくなかったのは、大人に相談しなかったことじゃない? 困ったら一人で考え込まないこと。近くの大人に相談するんだよ」



あの頃は、いじめられてばかり。
優しいから、よく傷つけられていた。
後ろから押されて転び、血を流しながら帰ってきたこともあった。あまりに学校に電話をするのもと思い、小さめのことには傷つきながらも、目をつぶっていた。



あれから12年。
息子は20歳になった。



数日前の夜中、突然息子から電話があった。
「どうしたの?」
息子の声に異変を感じ、嫌な予感がしながらたずねた。



「たまたまゴミ捨てに行ったら、警察と救急隊員が上の階の部屋に来てるんだ。もしかしたら、誰かが亡くなったのかも?」
おかしな空気を察知し、息子は怖くなった様子。



「東京なら、一軒くらい……『そういうこと』もある。でも事件だったら、怖いなぁ」
夜の暗闇は心をますます不安にさせ、良からぬことを想像してしまう。



散々、状況について二人であれこれ想像をめぐらした後、
「もう、これは下に行って状況を見るしかないな。もう一回見てくる」
LINE電話を繋げたまま、息子は救急車の状況を見に行ったようだ。



エレベーター脇に用意されていた担架は、すでになくなっていた。救急車の中では、誰かが動いている様子。おそらく、中にいる人は生きているのだろう。
部屋の前には、友人らしき人もいて、想像していた殺人事件ではなさそうだ。



「あー、ちょっとホッとした」
息子の安心した声を聞いて、夜中に電話を切ることにした。



あの日の言葉は、今になって有効だったのかも?
大人に相談してみること。
いい歳だから、大人だから……
そんな強がることばかりせず、弱い自分を見せられる。それができるのが、親子なのかもしれない。



あの日のチェーン事件が、今になって回収されたような気がした。
子育ては時間と体力勝負。でも、小さな毎日の積み重ねが、未来の我が子へと続いている。そして、その小さな経験が、未来の我が子の生きる糧となっているのかもしれない。




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