「もう時間がない……」

息子が慌ててメールでレポートを送ろうと、送付先のアドレスを探すが見つからなかった。




物理チャレンジのレポート提出期限に間に合わず……チャレンジする資格を失うという、最悪の終わりとなってしまった。

 

 

 

昔から、時間を逆算するのが苦手だった。

「23時まででやめなさいよ」

締め切り1時間前で、レポートを書くのをやめるよう私は話していた。

それなのに、息子は止められなかった。

時間にルーズなところがある。

 

 

 

ギフティッドは凹凸があると言われているが、凹みの部分があるとしたら、息子は「時間の管理ができない」というところのような気がする。朝も、一人で起きられない。私の育て方が悪かったのだろうか? 時々息子が理解できずに苦しむ。

 

 

 

レポートは、20ページ近く書かれていた。

全く理解できない細かな数式が並んでいる。こんなに苦労して書いたのに棄権となるなんて……心のどこかで、間に合うのだろうと甘く見ていた。息子の姿を見ていたからこそ、私はレポートを見るだけで悔しくもなった。

 

 

 

「僕は、一度取りかかると、徹底的にやりたくなって、集中が止まらない。受験の今、物理チャレンジに参加したら、集中しすぎて、受験勉強にマイナスになったかも?」

悔しい時間を通り過ぎ、息子は自分を分析し始めた。

 

 

 

「実験する中で、学びもあったんだ。

文系、理系の隔たりはなくて、むしろ文系の人からアイディアをもらえたよ。みんなに手伝ってもらったけど、僕の高校の友達は、締め切り2週間前なら実験を手伝ってくれても、あと1日しかないと話すと、一人しか助けてくれなかった。そんな冷たさも分かったかな。でも、多くの人に実験に関わってもらう中で、気づきが得られることも分かった。参加資格を失ったけど、色々なことが学べた気がするな」

 

 

 

「受験勉強は、面白くないんだ。毎日、辛い勉強ばかり。でも、研究は面白くて、久しぶりに勉強が楽しいと思えたんだ。すごくいい時間だったよ」

提出期限に間に合わなかったけれど、息子なりに得たものもあったようだ。

 

 

 

ギフティッドの息子は、答えが出ないような深い学びが好きだ。100点という点数には、喜びを感じない。自分の興味関心を追究し、どこまででも深く掘り下げていく。その時間を息子は「学び」と思っている。

 

 

 

100点という結果で判断される入試の世界が、息子には味気ないものに思える。100点を取ることが、そんなに面白いのか? と理解ができない。それでも、大学に入るためには点数が必要だ。自由に研究できる世界への切符を手に入れようと、好きではない受験勉強に励んでいる。

 

 

 

息子は、勉強ができないわけではない。

深く物事を学びたがっている。

レポートを出せなかった息子を見ていると、期限に間に合わなかった腹立ちと虚しさを感じた。

息子の居場所は、どこだろう?

 

 

 

息子を見ていると、いつも窮屈な世界で我慢をしているように思える。

息子らしさを輝かせ、伸び伸びと学んでほしい。

生まれてから今まで、いつも自分の身体のサイズに合っていない服を着ているような、そんな息子を見て、どう導いてあげたらいいのかと悩んだことも多かった。

 

 

 

レポート提出ができなかった息子を見て、自分らしさを試せるような世界の切符を手に入れそびれたような気がして、息子に苛立ちを感じ、同時に育てにくさも感じた。

 

 

 

息子は、集中すると止まらない。

それでも、経験をすることで、多くの学びを得たのなら、それでよしとすべきだろうか。

 

 

 

「あ〜、明日先生に謝りに行かなきゃ。先生をがっかりさせるのが嫌だなぁ」

自分がしたことは、自分できちんと責任を取らせねばならない。

「先生に、正直に話しておいで」

 

 

 

息子の凹凸の部分を、私も時に理解できない。

息子が世の中から理解されないような気持ちにさえなり、そんな息子が母親として何だか気の毒だったり、少し切なかったりする。

 

 

 

息子が息子らしくいられる世界へ、行けますように。

今の私には、そう祈るしかなさそうだ。

ギフティッドである我が子を理解するのは、時に難しさを感じる。そんな我が子を持つ母親も、時に孤独を感じるものだ。

 

 

 

数式を見つめ、考え続ける息子が、息子らしさを失わずに世の中に溶け込み、人を幸せにしていける人になれたら……そんな幸せを私は祈っている。




息子の幸せを見つめる私には、ちょっと切なく終わった「物理チャレンジ」だった。