今日は息子の高校の文化祭だ。
一般公開は、3年ぶりらしい。



「もう間に合わない…」
息子は数日前に焦りを見せていた。
文化祭のクラス準備を黙って見ていたが、進まない様子に危機感を覚える。これ以上黙っていられない。息子は結局仕切ってしまった。



最初に買い出しに行った生徒達が大量の発泡スチロールを購入してしまい、予算オーバーだ。クラスのメンバーで払わねばならない。発泡スチロールもかなり余っている。



息子は、イライラしながら過ごしていた。
これ以上予算オーバーにならないよう、計算をしながら買い物をする。
うちで寝ている息子を起こすと、指示を出す寝言ばかりだ。寝ていても、考えている。



もうムリ…その状態から、何とか間に合わせた。昨日、私の職場である塾の職員室に来た息子は、久しぶりに明るい表情だった。



「予算がかなりオーバーして、一人ずつからもらう額も上がってしまったよ。でも、用意は間に合った」
 


金額を聞くと、数千円多い。個人の負担額が増えてしまった。 



「それは、我が家で出してあげよう。レシートがあるなら、レシートを減らしておけばいい。そのかわり、発泡スチロールを買った子に、『隣のクラスにあげられて助けられたし、使い切れてよかったね』って話してあげられる人になってごらん?」



息子に話をした。
「どんな世界にも、合わない人はいる。それはどこに行っても同じ。だから、それを受け入れられるリーダーになってほしい。人のできなさやミスを許せる、温かなリーダーであってほしい」



「言いたいことはわかるけど、腹が立つ…」
息子は、笑みを浮かべながらも私に言う。



「若いから、尖っていていい。それでも、頭の片隅に話を入れておいて。その子達も、きっと自分のミスに気づいているはず。だったら、それを正論で語らず、認めてあげる言葉をかけられるリーダーを目指してみたらどう?」



しばらく職員室で話をした。
私には、もう話せることは限られている。
息子に教えられることは、ほとんどない。



尖った部分は、若さの象徴でもある。
少しずつ、人を包み込めるリーダーになれるなら、大量の発泡スチロールも、息子にはマイナスではなくむしろプラスとなるだろう。



梅雨空が、今日は晴れている。
いつもより早く起き、息子はクラスTシャツを着て出かけて行った。



息子を玄関で見送りながら、少し成長した息子の背中を黙って見つめた朝だった。