死ぬ気でやれば、なんとかなる。
当たり前に聞く言葉だが、誰かに励まされるのではなく、自分の経験から思えるようになるには、どれくらいの困難を乗り越えれば、いいのだろうか。
いつものように22時に授業が終わり、職員室に戻ると、息子が質問をしていた。数学の難題で、なかなか解答を見ても分からない。授業後に、先生と一緒に解いている。
だから、いつも帰宅は、23時になってしまう。その後、息子はzoomを使って、父親と英文を読む。父親は、思春期はもっと小さな子より睡眠が大事、と書かれてある英文を選んだ。
追い込みの今、スマホはもはや息子の頭に存在していない。あんなに好きなゲームさえ、する時間がない。
「本気」が周りを動かしていく。最初は、「本当に出願する気か?」「お母さんが塾の先生だから、無理やり受けさせられているのでは?」と、冷ややかだった先生達も、息子を見て変わってくる。冷ややかな態度が、応援に変わった。
中には、授業中に一つだけ、高校で必要な知識を入れてくれるようになった先生もいるそうだ。休み時間、自習の時間、ひたすら時間を見つけて、問題をこなす。その姿に、先生が動かされているように、私には見える。
過去問題は、あと1年解いたら、息子が生まれた年までさかのぼれるそうだ。15年分の過去問題を解き、それでもまだまだ課題がある。
「あぁ、本気で受かりたい。人間死ぬ気でやれば、なんとかなる。生徒会でも、死にそうなくらいの時を何度も乗り越えた。だから、勉強だって、死ぬ気でやれば大丈夫」
自らを励ますように、私に話していた。男女の違いなのか、体力の違いなのか、能力の違いなのかは分からないが、息子が少し羨ましい。私は、そこまで自分を追い込めない気がする。
学校に行けるのは、あと30日もない。コロナ禍の不安から、欠席が多い今、担任の先生が、「あと何日、全員が揃う日があるかしら?」と話したそうだ。「みんなは、前を向いているけど、見送る私達は、色々な思いがあるのよ」と、息子に語っていたと言う。
私も、常に見送る側だ。だから、その言葉が痛いほど分かる。見送る側は、寂しさを感じずにはいられない。
息子は、そんな先生の心を聞いたからか、休みたいとは言わず、学校に向かった。
頑張るエネルギーは、人を味方につけていく。きっと、原動力が、「自分のトラウマを乗り越えたい」というシンプルな気持ちだからではないだろうか。運動でも、仕事でも、純粋に自分に向き合う気持ちは、きっと周りにも伝わるものなのだ。
全ての入試が終われば、卒業式までに1週間しか残されていない。その1週間で、最後にもう一度したいことは、生徒会活動だと言う。最後の最後に、もう一度、学校のために働きたい。
今、息子が学校でしていることは、掃除だそうだ。気持ちがいいから…理由はいたってシンプルだ。学校を掃除するのは、気持ちがいい。そう語る息子に、「そんなに掃除がしたかったら、毎日、うちも掃除していいよ」と話した。
息子は、「うん…遠慮しておく」と、あっさりと拒否をする。なぜ、我が家は掃除しようとしないのか?大量のプリントを捨ててほしい、と感じながら、今日もこっそり、いらなそうなプリントを処分している。