「人民の海に逃げる」
という言葉がある。左翼系テロリストや政治犯がよく使う言葉で、確かにこの言葉通り、人の波に紛れて逃走し続ける犯罪者がいることは確かだ。
しかし、地下鉄サリン事件の実行犯についてはどうだろうかと考える。確かに、昨年逮捕された平田に続き、菊池も17年間という長い年月を逃走し続けた。
しかし、彼らの場合、死んでいる(もっとストレートな言い方をすれば殺害されていた)ことも考えられた。あれだけ大々的に手配写真が張り出されている。捕まらない方が逆におかしい。捕まれば、もっと大物実行犯にとって不利な証言がされるかもしれない。ならば闇に葬るということも考えられた。
でも、実際にはそうはならなかったんだ。
菊池直子は、マスコミによって有名にされてしまった。もともとオウム真理教ではマラソンランナーとして看板にされた人物だ。サリン事件などという非道な犯罪者に手を染める前、信者と家族の間でのトラブルはあったのではあるが、一時期、オウムは世間に馴染めない若者の受け皿だったことは確かだ。世間を受け入れられないエリート、スポーツ選手、芸能人、様々な人がオウムに入信することで、自分を受けいれる場所を求めていた。
「走る爆弾娘」はマスコミか警察が名付けた。確かにサリンの製造にも、爆発物の製造にも関与していたのかもしれないが、どこまで確信犯だったのかはよくわからない。この辺りは今後の証言やすでに逮捕されている幹部たちの証言ではっきりするのだろう。
17年間、彼女はどんな気持ちでいたのか?なぜ、ヘルパーという仕事についたのか。逃走資金は最初の段階で底をついていたらしい。早い段階で、仕事を見つけ資金を調達しなければならなかったのは解っていたようだ。結果的には犯罪に手を染めたのだろうが、もとをたどれば入信のきっかけは人々の救済である。その初心がヘルパーという仕事につかせたとは思えないだろうか。
17年間、逃げ続けることができたのはパートナーがいたからだろう。元々は信者同士、男女ペアで逃走することが決められていたようである。その方が怪しまれないということだろう。菊池直子の場合は、一般人と同居するようになったことがさらに彼女の姿を世間から隠すことになった。普通の夫婦に見えたことが隠蔽の効果となっている。
しかし、ごく普通の夫婦に見られ、容姿も大きく変わり、ヘルパーという仕事についても、彼女がサリン事件実行犯の菊池直子だとはばれなかったのに、ここへきて通報という形で逮捕されたのはなぜだろう。たしかに、ここ最近、NHKでオウムサリン事件の特番やドラマをやっていたので、それでピンときた人がいたのかもしれない。いや、本当はもっと早い段階で気がついていた人物がどこかにいたんじゃないかという気もする。
解っていたが、知らないふりをしていた。何かの心変わりか、それとも裏切りなのか、それはわからないが、身近な人物が気づいていたのではないか。
18歳で入信し、ランナーから犯罪者へ、そして17年の逃亡、ヘルパーとして糧を得て逮捕に至る。其の間、同居の男性に求愛され、自らが菊池直子であることを明かしても二人でい続けた。
もちろん、犯した罪の償いは絶対に必要だと思うが、彼女がどんな思いで17年間を過ごし、オウム犯罪や、また世間の出来事をどのように感じてきたのかは知ってみたいようにも思う。