大学3年時に、元フットサル日本代表のK選手のお話を聞かせていただいたことがある。その内容が「目標と目的」についてだった。学生スポーツの永遠の議論とも言える「勝ちにこだわるかor過程を重んじるか」論争だが、この議題に対して私はK選手のお話を聞いて以来「これらは両立できる」の立場をとっている。

 

 

 

「目標」と「目的」はどちらも「めざすもの」という意味では同じであるが、「目標」はめざす地点・数値・数量などに重点があり具体的であるのに対し、「目的」は「目標」と比べて抽象的で、その内容に重点が置かれるという違いがある。

 

つまり、チームの「目標」は具体的な最終到達地点(例:インターハイ出場、インカレ決勝進出、全日本選手権ベスト16など)であり、チームの「目的」は抽象的な最終到達地点(例:ボート部での経験を通じて人として成長する)である。哲学的な意味でいえば、ここでの「目標」は、目的を達成するための「手段」と言い換えられるかもしれない。

 

 

 

大切なことが2点ある。ここでは、私たちはインカレ優勝を目標とし、ボート部での経験を通じて人として成長することを目的としているチームに所属していると仮定して話を進める。

 

ひとつめは、目標の上に目的があるということだ。

 

先にも述べたように、目標=手段と言い換えればわかりやすいかもしれない。目的を達成するために存在するのが手段である。つまり、インカレ優勝はボート部での経験を通じて人として成長するための手段である。

 

ふたつめは、「目標の達成」と「目的の達成」はイコールで結べなければならないということ。「インカレ優勝=ボート部での経験を通じて人として成長する」を強く意識し続けなければならない。

 

 

 

目的の例に挙げた「ボート部での経験を通じて人として成長する」があまりに抽象的すぎるためピンときにくいかもしれないので、もう少し具体的に説明する。

 

たとえば、「人としての成長=計画的に行動できる人になる」だとしよう。目標となっているインカレの日程はすでに決まっている。すなわち「いつまでに」競技力をどの水準まで上げておかなければならないかが決まっているのだ。

 

では大学トップ選手のレベルは具体的にどれほどのものなのか。U23日本代表選考にチャレンジするにはエルゴ基準タイムが設けられている。OP選手は6:20、軽量級選手は6:30である。しかし、インカレには軽量級のカテゴリーはないので、軽量級選手でもOP選手と戦わなければならない。つまりインカレで優勝するためには、少なくとも2kエルゴを6:20で回すような選手に勝たなければならない。過去のインカレ優勝タイムはホームページで歴代の大会情報を見ればわかる。これらも「事前に」分かっていることである。

 

まずは現状を把握し、最終到達地点と現状のギャップを確認する。今エルゴスコアが6:30なら、インカレまでにあと10秒詰めるだけのフィジカルを身につけなければならない。今エイトの持ち時計が5:55なら、インカレまでにあと10秒詰めるだけの技術を磨かなければならない。

 

では何をすればいいのか。足りないものは何なのか。自分たちで考え、時にはコーチの意見に耳を傾け、議論し、試行錯誤し、そしてインカレを迎える。ここで勝たなければ、自分たちは計画通りに実行できなかった、もしくは計画が不十分だったということになる。目標が達成できなかったということは、目的が達成できなかったということである。

 

しかし、たとえ目的が達成できなかったとしても、この経験は決して無駄にはならない。同じ志を持った若者が集まって計画・実行し、4年間かけて困難な目標に立ち向かうという経験自体が非常に貴重なものである。そして、そもそもボート自体が過酷なスポーツだ。4年間耐えたというだけで誇っていい。

 

 

 

目標が明確なチームは多いと思うが、チームの目的となるとどうだろうか。考えたことすらないというチームもあるかもしれない。しかし、目標と目的の両方を明確にすることで組織力は飛躍的に向上する。もしもまだチームの目的が曖昧なら、今すぐにでも徹底議論すべきだ。これは明朝の1モーションよりもはるかに重要な意義を持つ。