先日奇跡が起こった。

引っ越し後に行方不明になっていたワイヤレスイヤホンを発見したんですよ。

このイヤホンはバッテリー稼働時間が長くて遠出する時に重宝してたんです。
近々遠出の予定もあり見つかって一安心。

そして先日、早速活躍の時が訪れた。
新幹線のチケットを購入し、乗る電車までは20分ほどあったので待合室に向かって歩く。
そう。この日は久々に電車での遠出。

小さめの待合室にはすでに5人ほど人がいて、私は1番ドアに近い席に陣取った。風が寒い。

ふと思い出したかのようにリュックから例のイヤホンを取り出してペアリングを試みる。

オートペアリングに反応しないということは、新規にペアリングをしなければと言うことだな、、とすぐ理解して、iPhoneの新規ペアリング先一覧を確認すると、「なんちゃらsound audio」という表示があったので、迷わず選択。

早速得意のエアロスミスを爆音で流してみた。

・・・・・・音が出ない。

あれ?と思った瞬間、向かいの席にいた年配の御仁が急に席を立ち「あぉーーーーっーぁぁい!!!」と奇声を上げ始めた。

あまりの出来事に狭い待合室にいた6人全員が呆気に取られた。
全員が振り向きオジイを凝視。
瞬間的にこの部屋が凍りついたのかと思ったぼどだった。

そんな中私はすぐ様冷静になる。
なぜなら私はこの手のアクティブピーポーには一定の耐性があり、一瞬呆気に取られたものの、その後は特段気にもせず手元のiPhoneと繋がらないイヤホンを相手に格闘していた。

そして私は知っている。
オジイは奇声と共に顔に纏わりつく虫を手で払う様な動作をしていた。
きっと極端に虫が嫌いな人なんだろうと勝手に想像してた。

私は手元のiPhoneでイヤホンとの接続を一度断ち、改めて接続し直す。

今度は上手くいきそうだ。
さっきはエアロスミスでダメだったので、次はピアノのクラシック。
序盤から力強い曲調で大好きなショパンの英雄ポロネーズをチョイス。
ド派手な出だしを爆音で聴くのが好きなんだ。

再生ボタンを押しても私のイヤホンからはショパンは流れなかった。

どうやら長い間仕舞い込んでいたせいで機嫌が悪いらしい。
私はイヤホンの型番を調べてホームページからペアリング方法を確認する事にした。

その間もオジイの奇行は止まらず、ずっと
「おいっぐぁっ!!!なんだっ!!!なんだこれはっ!!!!」
って叫んでた。
流石にビビりすぎた女子高生風の女の子は待合室から出て行った。

オジイは割とすぐに落ち着きを取り戻し席に座り直すも、肩で息をしていて辛そうだった。

あまりにも続く様であれば声をかけて救急車を呼ぶかどうか尋ねなければなと、考えていた。

型番を調べきれない私は最後の手段としてiPhoneの電源とイヤホンの電源を両方入れ直し、改めて接続し直した。

今度こそはと思って手にも力が入る。
最後の手段に相応しい曲として椎名林檎の「正しい街」をチョイス。
冒頭から激しいドラムの音と共に林檎様の見事なまでのハスキーっぽくもまた艶のある美声で
「あぁーーーーーいぁーー♪♪あの日飛び出したー♫♫」という出だしで始まる名曲中の名曲だ。
知らない人は絶対聞いてほしい。

再生ボタンを押すと共に林檎ではなく目の前のオジイが
「あーーーーーーーーーーっっっっ!!!」と叫んでガラス製の自動ドアにぶつかりながら待合室から飛び出して行った。

流石に3度目ともなると周りも耐性が付き、この奇行を見守る人は半分ほどだった。

私は心の中で季節外れの虫がよっぽど気に入らなかったのかな?って少し気の毒に思った。

それより私は一向に繋がらないイヤホンのことで頭がいっぱいなのだ。
ついに諦めたかけてイヤホンの袋に本体を戻そうとした時、袋の表に機種番号が書いてある事に気がついた。

私はその機種番号に基づいてネットでペアリング方法を調べると、いとも簡単に接続方法が判明した。
本体をペアリングモードにしない限り、iPhone側にはペアリング先として表示されないらしく、私はずっと見知らぬ「何か」に接続をしていたらしい。

まあ、そんな事もあるさ。
そう思ってもう10日ほど経った今日この頃・・・

私はある事に気づいた。




俺、、、、絶対あのオジイのイヤホンに接続してたわ、、、、。

判明したとき体が凍りついた。


つまりこういう事だ。


たまたま、なににも接続がされていなかった電源の入ったオジイのイヤホンに私が勝手に間違えて接続したあげく、爆音でミュージックを流すというテロを起こし、見事なまでの遠隔操作でオジイを苦しめ待合室からの退場まで導いたという事だ。



まずい。


ヤベェじゃん。



今すぐオジイに謝りたい。




やっぱり美空ひばりにしとけばよかったんだよ。



湯淺直樹