無くしたと気付いてから6年が経つ。


「それ」 は6年以上も前、何の前触れもなく音もなく

私から静かにこぼれ落ちた。



無くした事に気付いてから6年間、

私の周の人も無くしたと知っている人はいたけど

誰も私に心配したり同情したりする人もいなかった。


それは無くした当人の私があまりにも平然としていたからであろう。

当然かのように必死になって探したりもせず、

偶然に見つかる事もなく6年の月日が経った。

それまで本当に一度も困ったり落ち込んだりする事なんて無かった。


昨年末までは。





昨年末、6年間一度も起きなかった「出来事」 は起こった。



仲間達と忘年会をする事になり、久々に地下鉄で街に向かった。


地下鉄を降りてすぐだった、。

一緒に向かっていた相棒が先に私を呼ぶ声に気付いた。



振り返る私の前に見た事も無い長身のイケメンが現れた。

彼は私を知っているかのような目で私を見下ろした。


次の瞬間私は凍りついた。



「湯浅だよね? 俺、イガだよ!!? 小学校一緒だったよね??」


無くしてから不自由はしなかったものの、心のどこかで恐れていた「出来事」が

ついに私の目の前で起こった。


「それ」 とは記憶、、、、そう、、





私は 「記憶喪失」  なのである。




6年以上も前何らかの原因で小学校の頃の記憶

まるまる6年分を失ったのである。



声をかけられてヤバイ・・・・と思ってしばらく固まっていた。


その場しのぎで嘘でも覚えてるふりをしようか迷った。

記憶を無くした事を言えば相手も言葉を失い、

一瞬で重い空気になる事が容易に想像できたからだ。


しかし、上手くその場を乗り切る自身もなく

相手にも悪いと思い本当の事を言う事にした。



「ごめんなさい。私は小学校の頃の記憶が無いんです。」


予想していた事は瞬く間に現実となった。


相手もぽかんと口をあけ固まった。

少し悲しそうな困惑したような目になってお互い口をあけて固まった。


そして彼は何を言っていいかわからな様子で

 「じゃあ後で卒業アルバム見てみて!サッカークラブで一緒だったから!

それじゃあ頑張ってね!」と言い去っていった。



その時の彼のちょっと悲しそうな目を見て

私は初めて無くした事を悔やみ、無くしたものをいとおしく思った。



思えば私は彼の名はおろか、小学校の名や場所さえも覚えていなかった。

自分が何組だたのかも、どんな友達と仲良くしていたのかも、、

好きな給食のおかず

得意な科目 (間違いなく体育だったのではと思われます)

当時好きだった子の名前 

間違いなく犯したであろう悪事の数々・・・・・


気付いたらそこだけポッカリ無くなって、今となっては人から聞いた話が

私の唯一の思い出となっている。



卒業アルバムにあった担任の先生は デワ先生 という名前。

明るく気さくな良い若い先生だった。


サッカークラブではレギュラーメンバーだったが、

単に足が異常に早いだけだったかららしい。


とにかく落ち着かない子で目をはなすとあっと言う間に

いなくなるらしい。


運動会じゃスターだったがそれ以外では大体問題児だったらしい。



なんでもロシア人がクラスにいたらしく、昔の話を私がする時は

よく話に登場していたらしい。


まるで他人の話を聞いているようで、ピンとも来ないし

聞いているとなんてクソガキだと思いまたそれが自分だと思うと泣けてくる。


そんな実際にあった話、、、、一体いつ何処で無くしたんだろう、、、。


高校1年の終わり頃からパタンと昔の話はしなくなった

と9歳の頃から一緒にスキーをしているコマッちゃんが言っていた。



きっとその間に何かあったのであろう。


読者の皆様も知っている方は多いと思いますが、


デストロイヤー湯浅 と異名を持つくらい

破壊神であり、クラッシュの王様だった私は

その間思い当たるようなスキーでの事故は数々ある。



記憶を無くした原因はスキーでのクラッシュ以外には考えられないが、

いつ無くしたのかも正確ではない為そう断言すら出来ない。



イガちゃんと会ってから頭から離れないんです。


ちなみに彼と会ってすぐに母に電話した結果イガちゃんは

サッカークラブで一緒で割りと仲良かったほうだよ?って、、、



今まで不都合が無かったから深く考えようとしてなかったけど、

これをきっかけに考える事が多くなって少しずつ思い出したりするのかなぁ??



もしこの先同窓会とかあったら、俺はどんな顔して行けば良いのかな???


また街で声をかけられても何も言えずまた相手に悲しい思いさせてしまうのかな????


そう考えるとどうやら早く思い出すに越した事はなさそうです。


しかし、現在まで全くもって何一つ思い出せず既にかなりの時間が経過しました。


この先記憶が戻る事はあるのか心配です。



そしてイガちゃん、、ごめんよ。。

今度会ったらゆっくり私の話、聞かせてください。


ちょっと聞くの怖いけどね・・・・・(苦笑)



湯浅直樹