その6 第2番プレリュードの最後の5つの和音

 

 

 

この和音をどう弾くか悩んだことのあるチェロ弾きは多いのではないかと思う。曲が結構遅めなので3拍きっちり伸ばすのはなんだか耐久レースをやっているような気分になる。それもかなり劇的に悲壮的にフォルテでやると尚更すごい感じになる。

 

若い頃ロストロポーヴィチのLPレコードを持っていて裏表にこの2番と5番が入っていたのをよく聞いたものだった。この演奏でロストロの和音の弾き方が信じられない持続力で弾き切っているのに物凄く感動し、憧れ、なんとかそういう風に弾きたいものだと思っていた。多分そう思っていたチェロ弾きは結構いるはずだ。そうやって弾くには腰から右肩、肩甲骨のあたり、腕、肘を総動員でガンバるしかないのだ。いい筋トレだった。

 

ところでこの和音を、では今はどうするか?私のCDを聞いたことのある人は知っているだろうけれど、私はここにアドリブを入れる。いやロストロのようにソステヌートで弾けないからではない。確かにそう引けと言われても弾けないだろうが。私の先生のフラショーさんやジャンドロンもそんなに頑張って弾いてはいけないといっていた。

 

アドリブといっても適当にやるのではなくある秩序が必要だ。バロック時代の即興も現代のジャズの即興もいかにもその場の思いつきでテキトーにやるのが即興かと思っている人も多いだろうが、いうとそんなことはない。ある程度の訓練と知識と準備が必要だ。

 

 

 

この譜面は第1番プレリュードの終わりのところだが、3音の和音を一定の法則で行ったり来たりしているのがわかる。いわゆる終止形(カデンツァ)である。これは別の書き方をすれば、下のように書いてarpeggioと書いても同じだ。

 

 

これは私の推測だが、バッハは第1番もこう書いたかもしれないと思っている。推測をさらに推し進めると、初演のチェリストが即興なんてできないから何か書いてくれ、とバッハに頼み、それをここでは一番インプルな形で書いてくれたのかもしれない。

 

同じような例は無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番の「シャコンヌ」にもある。

 

 

 

ところがこの第2番ではバッハはもうわかっただろうとばかりに書かなかった。この考えは以前からベーレンライターなどの解説にも書かれていた。

 

シンプルな例では第1番とほぼ同様にこんな感じでやってみることができる。

 

指が弱くて和音を抑えるのが大変なアマチュアプレーヤーには和音の練習にもなるのでオススメである。

 

もう少し凝ったのではこんな風にもできる。

 

 

他にもいろいろあるが練習のたびに違うことをやっているので楽譜に5パターンくらい書き残している。その譜面は私の生徒さんにはこっそり差し上げている。

 

続く