5弦ピッコロチェロを弾く筆者とフルサイズチェロ
その4 第2番プレリュード
第2番のプレリュードは、チェロの音色を存分に活かした非常に旋律的な音楽でバッハの他のプレリュードにはあまり類似した曲が無い独特な音楽だと思う。
第1番のプレリュードとは違ってこちらは24小節目までは確固とした4小節のフレーズで成り立っている。
冒頭のre-fa-la(完全5度)、do♯-mi-sol-(la)-si♭(減7度)、mi-sol-si♭-do♯-mi (1オクターブ)と音程が開いて行くモティーフが特徴的。
2、3小節目は1小節目の音をヴァリエーション的に展開しているがこの手法を曲全体で用いている。
この出だしはペダルトーン開始というバッハが好んで使った和声進行が感じられる。1番から4番のプレリュードもその例。特にペダルトーンを補って弾いてみるとバッハが思っていた(だろう)悲壮感の漂う音が感じられる。
「悲壮感」と書いたがおそらく作曲した時代がケーテンの時代で最初の妻マリア・バルバラが急死した事(1720年)が関係していると思われる。
この時代の器楽曲に個人的感情を盛り込むことは、滅多にする事ではなかったが、この第2番は曲全体がかなり客観的に聞いてもある種の悲壮感があることを否めない。
ヴァイオリンの無伴奏パルティータ第2番、「半音階的幻想曲とフーガ」も同時期の作曲と思われるが、いずれもニ短調でバッハにしては珍しいくらい悲壮感の漂う曲である。
さて、冒頭2小節目でいきなりバッハの好んだ減7度が出てくるが、このプレリュードには7度を含む和音がひっきりなしに出て来る。バッハは7度の和音を使うのが大好きなんではないかと思う。7度の和音というのは減7度の和音と属七(短7度)の和音は独特の強い響きがあるので好まれて使う音だが、下の譜例の2小節目にあるsi♭-re-fa-laという長7度和音は、係留というテクニックでしか理論上は使えない音なのだがバッハはこの音が大好きだ。この和音はジャズではほぼ基本形と言えるMajor sevnというカッコいい和音だが、同時代のテレマンやヘンデルなどでは少ない。
どうでしょう。5回も続けて7度です。これがバッハでなかったら、例えば1小節目の丸で囲ったLaはSi♭、3小節目のSolはLaを書くだろうと思う。そうすると凡庸といえば凡庸だがヴィヴァルディのような竹を割ったような音楽にはその方がスッキリすることもある。
ヴィヴァルディが凡庸という意味ではない。いや全く無い。むしろその反対。ここでは普通はそう書くのが当たり前という意味です。
ちなみにこのパッセージも冒頭のモティーフのヴァリエーション的音型である。
続く