こんにちは。


先日、低用量ピルを内服していて血栓症ができてしまった女性についてニュースになっていたので低用量ピルについて改めて情報提供できたらなと思って記事を書かせていただきます。



記事によると現在59歳の女性が2007年3月から2013年11月にかけて計34回にわたって低用量ピルを処方処方され服用していた。

内服終了した数ヶ月後から意識障害が進行し血栓症と診断、右半身の麻痺や失語症を患ってしまったとのこと。

その致命的になった要因が最後の処方で、さらに必要な検査や慎重投与を怠ったとして2億円近い賠償金が請求されました。



なんと、、、、多方面の意味で恐ろしい、、、、



さて、低用量ピルと聞くとどんなイメージを持つでしょうか。



避妊用のホルモン剤?

なんか、怖い、、、

あまり使用するのにイメージ湧かないな、、、



などなどでしょうか。



低用量ピルといっても多種多様で、いろんな用途で使用されています。



ちなみに私も長年の愛用者です。



低用量ピルには自費のOC(Oral Comtraceptives)と保険適応のLEP(Low dose Estrogen Progestin)というものに大まかに分られます。



どちらも主な女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が配合されており、①排卵の抑制、②子宮内膜(剥がれて出血として排出される部分)の増殖を抑制し月経量を減らす、着床を防ぐ、③頚管粘液の性状を変化し精子の侵入をブロック、という作用を持っているという面ではOCだろうがLEPだろうが変わりません。



しかしエストロゲンの含有量、配合されている黄体ホルモンの種類が異なるため、薬の種類によって何に特化するかが変わります。



自費のOCはエストロゲンの量が保険適応のLEPより多く、避妊効果に特化していると言われています。



それに対してLEPは月経困難症、子宮内膜症に保険適応があり、左記の疾患がないと保険適応にはなりませんが、その他種類によってはPMSに効果が高いものも含まれます。また、OCと比較すると避妊効果は下がると言われています。



どちらの薬も子宮体癌、卵巣癌、大腸癌のリスクを下げ、ニキビの軽減、月経前症候群、月経不純の改善など公認のドーピング剤ですか!?って思ってしまうほど優れた薬です。



私も月経困難症やPMSがひどく、月経前に気分の落ち込みや両側の胸の張りに耐えられず開始しましたがこれがまた快適なんですねおねがい



しかし、このOC/LEPも使用ができない方が一定数いて、そこで問題になってくるのが血栓症のリスクです。



低用量ピルに配合されているエストロゲンが血液を固まりやすくしてしまう作用があり、血栓症の素因のある方、血栓症のリスクが高い方は使用ができません。



細かい禁忌、慎重投与の取り決めがあるのですが、

ここでは主なものを伝えます。



【絶対使用してはならない方】

・50歳以上または閉経後の方

・35歳以上で1日に15本以上の喫煙をしている方

・前兆(閃輝暗点)を伴う偏頭痛がある方

・重篤な高血圧(収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧100mmHg以上)の方

・血栓症の素因がある方


【慎重投与となる方】

・40歳以上の方

・BMI30以上の方

・禁忌に当てはまらない喫煙者の方

・軽度の高血圧をお持ちの方

・前兆を伴わない偏頭痛をお持ちの方


上記に当てはまらない患者様でも血栓症を起こす可能性はゼロではありませんが、そもそも低用量ピルを内服しなくてもなる時はなるのです。



低用量ピルを内服していない方が血栓症を引き起こす確率が1〜5/10000人・年だとすると低用量ピルを使うことで3〜9/10000人・年、妊婦は5〜20/10000人・年、産褥12週だと40〜65/10000人・年と言われています。

(OC/LEPガイドライン2020年版より引用)



妊娠や出産後でも血栓症を発症される方は多くなく、大学病院(ハイリスク妊婦さんを見る産科)ですら年間に2〜3人くらい(あくまで私が所属していた大学病院での印象です)でしたから、それに比べると何十倍もリスクが低い妊娠・産後直後でない患者様は飲み方さえ守っていただければ基本は血栓症になるリスクは低いです。



とはいってもとても忙しい現代人の女性は水を飲む間もなかったり、容姿を気にして過激なダイエットを行うとそもそも血管内の水分が少ないためそういった方が低用量ピルを内服すると血栓症になる可能性はかなり上がります。

(私の大学病院の先輩医師も忙しすぎて低用量ピル内服していないのに血栓症になっていました)



だからこそ、内服される前のインフォームドコンセントがかなり大事で、しつこいほど血栓症について説明します。



それでも血栓症の発症をゼロにはできないため、実際に対面で症状を伺いお話しすることが大切です。

(とは言ってもオンライン本当に便利ですよね、、、)



冒頭にもあった、低用量ピル内服による血栓症のニュースですが、

その患者様の主張だと、医師がするべき検査をしていなかったから、慎重投与も怠っただろ!最後の処方が致命的だったんだ!

医師のせい、責任とってお金払え!っていう主張だったのですが、



これ医師の立場からすると合っている点もあれば、少し間違っているなと考える箇所もあります。



まず、合っている点は慎重投与を怠った点。

現在59歳が処方されたのが2007年から2013年ということは17年前から11年前で42歳から48歳ですよね。



低用量ピルの禁忌は50歳以上だから別によくない!?と思うかもしれませんが、低用量ピルは開始年齢がとっても大事!



20代や30代で開始し、40歳以降も継続するのと、40歳以降に開始し継続するのではまるで話が違うのです。



40歳以降の開始はかなりの血栓症ハイリスク群。



たまに開始している方もいますが、基本は開始しないで他の方法で避妊や月経困難症を予防するように指導します。



なので、この事案は開始時期が悪かったという点では慎重投与を怠っており、主張は合っています。



次に間違っている点は最後の投与が致命的だったという点と、しなければならない検査を怠ったという点。



低用量ピルは開始年齢が大事なのと開始して3ヶ月が最も血栓症リスクが高まると言われているため最後の投与がいきなり致命的になる可能性は低いと思われます。



また、しなければならない検査というのはおそらく血液検査のことだと思われますが、



低用量ピルを内服すると肝臓の機能の血液検査、血栓症の兆候を見る指標のDダイマーという項目の血液検査を定期的に施行する施設もあるのですが、これは必ずしも義務ではありません。



肝臓の機能に関しては定期健診で行われる項目とほぼ被っていますし、Dダイマーという数値が低いからといって血栓症にならないわけでもないし、高かったからといって血栓症に必ずなるわけでもありません。



だからDダイマーで血栓症の罹患予測ができるわけもないですし、仮に測って僅かに高かった時、血栓症できるかもしれないから低用量ピル内服やめてねって言われてしまうわけです。(できないかもしれないのに)



というわけで、このしなければならない検査を怠った、最後の処方が致命的になったは正しい論点とは言い難いと思います。



この事案から学ぶ点は、血栓症にならないように内服するには?血栓症かもと疑った時どうする?ということです。



内服する場合は以下の点を守ってください

・血栓症にならないように飲み方を守る

・中断再開を繰り返さない(開始3ヶ月が最も血栓症のリスクが高いと言われています)

・血栓症のリスクが上がることをしない(喫煙や体重増加など)



血栓症になったかもと思った時

・正しい症状を理解して自分でも確かめる(片側の脚の腫脹、発赤、把握痛、胸痛、息苦しさ、頭痛、喋りにくい、激しい腹痛などなど)

・血栓症ができた時の症状を把握し疑わしい場合は救急外来を受診する



この時注意なのが、レディースクリニックに受診しても、緊急で検査をしてその時点ですぐに血栓症の有無がわかるような設備をしているクリニックは少ないです。



婦人科のクリニックに血栓症かもと受診しても『じゃあ救急科がある総合病院にすぐに行ってね!!』って強く言われて終わることが多いですし、万が一血栓症があったら一刻を争うケースも多いためレディースクリニックで待って漸く呼び込まれたと思ったらお話だけで終わったなんて時間がもったいないです。



なので直接救急病院を受診してほしいというのが正直な気持ちです。。。



低用量ピルはとても優秀な内服薬ですが、メリットが大きいお薬はその分リスクも付きものです。

今回取り上げさせていただいたニュース記事は医師、患者で信頼関係を築きつつ、正しい情報提供と患者様の協力が必要と感じた記事でした。



ご質問があれば何なりとコメントをお願いしますウインク

答えられる範囲内でお答えさせていただきます!

それでは爆笑