奇妙な旅行
一台のステーションワゴンに乗り合わせた3人。同じ宿に泊まり、別々の名前で一人部屋に篭る。会食もそぞろにマスクは取らず、悪しきものが浮遊している閉ざされた世界。ラーメンをすする音すら虚しい。ある人は、誤った事実で他者を蔑む。またある人は、正しさを主張できずに自傷をする。さらには、正誤の判断ができない戸惑いを隠している。暗みがかった橙と仄暗い青の狭間に、飛行機雲が見える。高くはない雑居ビルが視界を遮る。1灯のデスクライトを頼りに、ただ座っている。スポットで照らされたソーシャルディスタンスが、フェードアウトしてゆく。薄い壁の向こう側では、誰かが電話をしている。こもった周波数の低いあの声から、体型も含めて容易に想像ができる。疑心暗鬼になり、聞き耳をたてる。年季の入った小さな窓の外が、闇に溶ける。