野外で採ってきて育てていたセスジスズメの中齢幼虫。「スズメヤドリコマユバチSnellenius theretrae」という寄生バチに寄生されていて、ある朝見ると背中に米粒大の淡緑色の繭がついていた。
繭の近くには、セスジスズメ幼虫の中から脱出したであろう穴が空いていた。写真を拡大して見ると、セスジスズメ幼虫の体内に淡緑色の糸が見える。
はて?繭になる前からセスジスズメ幼虫の体内で糸を吐くのは一体どんな目的なのだろう?
「寄生バチと狩りバチの不思議な世界」
編=前藤薫/一色出版/2020
この書籍によれば、ある種の寄生バチは宿主の体内に糸を張り巡らせ、体の内側から拘束して宿主を動けなくするらしい。まさしくこの写真がそれを物語っている。
セスジスズメ幼虫は上半身はけっこう動かせるが、下半身はあまり動かせないようで、刺激すると上半身をのけぞらせて威嚇みたいな行動はするが、その場に留まり移動はしない。寄生バチは、セスジスズメ幼虫を用心棒にして、自らの無防備な蛹期間を外敵から守らせる戦術のようだ。
結局セスジスズメ幼虫は寄生バチの羽化後に死んでしまったが、さすがに解剖する気にはなれず、丁重に埋葬した。
羽化した後のスズメヤドリコマユバチの繭の方も、せっかくなので丁寧に観察。
切り口がまるで機械で切ったかのように一直線にキレイに切れている。
人間なら、歪んだり切り始めと切り終わりでズレたりするところを、昆虫ってすごいなー
頭の先端を繭の頂点に当てて支点にしながら、コンパス的にぐるっと1周大顎で切ればズレないね。そういうことなのかな。
繭の底には…
何かあるけど小さすぎて何なのか分からない。何かの虫体にも見えるけど動かないし、後日見ても大きくなってもいない。
前出の「寄生バチと狩りバチの不思議な世界」によると、スズメヤドリコマユバチのような内部寄生バチは奇主の体内では排泄をせず(腸が体外にまだ繋がっていない)、寄主の体から脱出して蛹になる直前に腸が体外につながって、繭の中で生涯で初めての排泄をするという。
ということは、繭の底にあるのは寄生バチが蛹になる直前の排泄物と蛹になった時の脱皮殻かな。
寄生バチの思わぬ出現によって、色々と好奇心を刺激され世界が広がりました。
ありがとう、スズメヤドリコマユバチさん。