こえのブログ 「大切な人」 | 仲代奈緒オフィシャルブログ「ココロの部屋」Powered by Ameba

こえのブログ 「大切な人」


公演までの1カ月。
ブログで予告していたように、今日から、こえのブログで「大切な人」からの朗読をお届けしたいと思います。
3分という短い時間ですが、皆様にいい時間をお届け出来たら嬉しいです。


「大切な人」
58歳の私は馬鹿のように泣いてばかりいた。
母譲りの陽気な性分だから人と一緒の時は明るく暮らしていたが、一人になると涙が出る。
それもまるで3歳児が母親を求めるのと全く同じ、ただ母がいないというのが寂しく納得できない。「お母さん」「お母さん」と


いつまでも心の中で叫んでいる。


母の死から3ヶ月、半年、1年。
その思いは変わることなく自分ながら呆れてしまった。


母と子の原始的ともいえる絆の強さ。肉体を失っても、母の性、母の気は滅ぶことなく、この物質世界と次元を異にして存在するのかもしれない。むろん、あの世で母に会えると信じているわけでもない。1年泣いて気づいたら、死への恐怖が消えていた。それは母が愛と死をもって私に与えてくれた、最後のふしぎな贈り物である。


「大切」という言葉はやさしすぎて現代人は心に留めて使わないが、人間が一番幼い頃に覚える、一番優しくて、美しい、一番人間らしい言葉だと、私は思う。
そこにはものをいとおしむ人間の心がある。


「大切な人」を守っていることの幸せ、「大切な人」だと思ってもらえることの幸せ。


父と母を旅立たせた今、父と母との大切な思い出は、私の生涯のどの時代よりもさらに鮮やかに、濃く、暖かく、私の心を満たしている。