映画「約束〜名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯〜」
東海テレビの齊籐潤一さんの撮られた映画、「約束~名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯~」を見ました。
見終わって、悔しさと怒りで涙が溢れ、しばらく立ち上がれませんでした。
日本は何て悲しい国なんだろう・・・。
この映画は冤罪の死刑囚、奥西勝さんの半生を描いた映画、
本当の映像も混ぜられたドキュメンタリー映画です。
再現部分は、父・仲代達矢が奥西さんを、若き日の奥西さんを山本太郎さんが、奥西さんの母タツノさんを樹木希林さんが演じています。
齊籐さんは2年前に奥西さんのドキュメンタリーを撮られましたが、死刑囚は家族、弁護士以外との面会が許されません。
主人公でありながら奥西さんに会うことができない、取材が出来ない…。
悩んだ齊籐さんが思いついたのは「役者さんに演じてもらう」ことでした。
奥西さんは昭和36年、三重県名張で起こった毒ぶどう酒事件の犯人として逮捕され、87歳になる今日まで、50年もの間ずっと無実を訴え続けています。
しかし彼は死刑囚。いつ処刑の日が来るかも分からず、毎日恐怖の中で朝を迎えます。
奥西さんには犯人としての決定的証拠はなく、逮捕理由は唯一、彼がした「自白」だけです。
それも強要されたものでした。
一審では無実、しかし二審で死刑判決。
戦後唯一の無罪からの逆転死刑判決です。
一人で戦ってきた彼でしたが、彼の無実を信じ彼を助けようとする人が集まってきます。
しかし司法の壁は厚く、来り返される再審請求と棄却…。
彼を支える弁護士が出す証拠は彼が犯人ではないと言うことを裏付けるものばかりですが、一度決まった判決を覆すことは裁判官にとっては自分の将来を捨てることであり、多くの裁判官が彼の訴えを退けて行きました。
彼の訴えを受け入れた裁判官がその後裁判官を辞めていることからも、それは明らかです。
私はずっとそんなことを知らずに生きてきました。
司法のやることは絶対に正しく、正義なのだと。
しかし、いくつもの冤罪、そしてこの奥西さんの事実…。
本当のことを知れば知るほど、悲しく、苦しくなって行きました。
日本ってこんな国だったのか・・・。
平和で豊かな日本という国。
今までずっと、国民のことを思ってくれている良い国だと思って生きてきました。
しかし、311が起こり…、不信を持つようになりました。
そして知れば知るほど同じ思いになるばかりです。
国は、人ひとりの命など、どうでも良い。
福島の子供が病気になろうと、奥西さんが無実を勝ち取れないまま亡くなろうと、そんなことはどうでもいい。
私達が大切に思っているひとつひとつの「いのち」よりも
メンツを保つことが大切であり、自分たちの利益や将来しか考えてないのです。
真実を伝え、命を守ることより、真実を隠し、自分たちの利益を守ることの方が大切なのでしょうか。
ひとりひとり、心を持った人間がやっているはずなのに、なぜこんな風になってしまうのか…、悲しくなるばかりです。
私の祖父は戦前、裁判官をしていました。
しかし、戦争が始まり、祖父は将来が約束されていたにも関わらず裁判官を辞め、弁護士になります。
祖父は戦争反対の人でした。
祖父は辞めた理由を言わなかったそうですが、将来が約束されているとはいえ、司法に携わっている以上いつか自分の信念を曲げなければならなくなる日が来ることがいやだったのではないかと思います。
当時は今よりももっと厳しい時代だったと思います。
それでもそういう選択をした祖父。
今、こんな時代になり、そんな祖父を持てたことを私は改めて誇りに思います。
「人の心を持った人」
物質的に豊かになりすぎた日本人は、本当に大切なこの思いを忘れかけているように思います。
無関心をやめて、今、この思いを一人でも多くの人に思い出して欲しい…。
この映画は一人でも多くの方に観てもらいたいです。
そして、考えて欲しいです。
奥西さんのこと、ひとつひとつの「いのち」のこと、
そして、日本の未来のこと…。