先日、

畠の人参をタヌキに食い荒らされた!!

と、野菜農家仲間がガックリ、ガッカリ、怒って話すのを聞いて、ふと(大変申し訳ない、のだけど、、、)頭の中で、こんな話しが思い浮かんでしまった。

 

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昔、野菜を作って暮らしている百姓がおった。

里の野菜畠には、時々山から獣たちが降りて来て、様々な悪戯をするので、百姓は困っておった。

寒さの厳しいある年の暮れのこと。

めでたい新年のために作っていた人参を市場に納めようと、畠に収穫しに行った百姓は、たまげて腰を抜かした。

人参が畠から一本残らずなくなっておる。

畠には点々とタヌキの足跡が着いておった。

タヌキどもが食い散らしに来おったかぁ!

百姓は地団駄踏んで悔しがったが、もうどうにもならん。

すごすごと家に引き返すほかなかった。

 

その夜は見事な満月じゃった。

横になっておった百姓は、ほとほとと戸を叩く音に起きて外に出た。

月の明かりに伸びた百姓の影の先にタヌキが一匹おった。

このタヌキめが!

百姓が声を上げ履いていた履物を投げつけると、タヌキはひょいと頭を下げ、ひょこひょこと少し先まで逃げてから立ち止まり、百姓の方を振り返った。

癪に障った百姓は履物を拾うと、辺りにあった小石を拾ってはタヌキに投げつけた。

タヌキは小石の当たらん所まで逃げては百姓を振り返る。

 

いつの間にか、百姓は里山の尾根までタヌキを追って来てしまっておった。

尾根の枯れたススキの原っぱにはタヌキが何十匹も集まっておった。

タヌキたちは百姓を取り巻き、輪を作ると、踊り出した。

 

この冬は寒くてのぉ

山にはなぁんにもありゃせん

ドングリも

山の芋も

木の根も

みいんな食ってしもうた

春はまだまだじゃ

熊ドンも鹿ドンも狐ドンも穴熊ドン猿ドンも

みんな春を待っておる

明日はその春を迎える新年じゃ

タヌキはな

この新年の宴の役に当たったのじゃ

山の皆をもてなす役じゃ

宴には旨い肴を出すものじゃ

百姓ドンの畠の人参は旨い

新年の宴にふさわしい

百姓ドンの畠の人参は旨い

新年の宴にふさわしい

 

タヌキたちは歌って踊り、百姓にペコリとお辞儀した。

そして一匹一匹、人参を盛った皿を運んできた。

人参の煮物、人参のサラダ、人参の団子、人参の焼き菓子、人参の揚げ物、人参の酢の物、人参のステーキ、人参のジュース、人参の、、、、、

人参のお膳が所狭しと並ぶころ、周りは山の獣たちも集まり、盛大な宴が始まった。

猿ドンが百姓に寄って来て、竹筒を差し出した。

猿酒じゃ。秋の木の実で作ったのじゃ。旨いぞ。

鹿ドンは高い清んだ声で歌を歌い、狸ドンは踊りだし、穴熊ドンと狐ドンは猿ドンを行司に相撲を始めた。

百姓はだんだん楽しくなってきて、相撲を囃し立て、その内、自分でも、眠たそうな熊ドンと相撲を取り出した、

月は煌々と一晩中、山の宴を照らしておった。

 

朝、目が覚めると、百姓は家で横になっておった。

さて、おかしな夢を見たものじゃ。

起き上がって枕元を見ると、見覚えのない木箱が置いてある。

百姓は木箱を手に取り、蓋を開けた。

中には人参の種がギッシリ入っておった。

 

春、百姓は耕した畠にどっさりと、タヌキからもらった人参の種をまいたとな。