三連休の最終日。 

その日の朝、彼が私に言った。 

「今日さ、食事のときに両親に

プロポーズのこと、

ちゃんと報告しようと思ってる」




 そのひとことに

急に私はそわそわ

し始めてしまった。

 緊張して何着ていこうか

ずっと悩んだし、 

何を話せばいいのか、

頭の中で何度も

シミュレーションした。

 「変に思われないかな」

「急すぎるって思われたらどうしよう」
いろんな不安がぐるぐるして、

彼に何度も「大丈夫かな?」って

聞いてしまった。 





 そのたびに彼は、 

「大丈夫。せいかのこと、

ふたりとも大好きだし、

プロポーズしたいってことは

前々から伝えてあるから」って

笑ってくれたけど、 

やっぱりドキドキは止まらなかった。






 

夕方から、彼のご両親と

焼肉を食べに行った。 

 食べ放題のお店は、 

家族連れや学生たちで

にぎわっていて、

 店内は笑い声でいっぱいだった。






 席に着いてから、

 私はなんとなく

左手の薬指を見つめてた。 

そこにはおとといもらった指輪。

 つい、何度も見てしまう。
 

 

 

 

テーブルの下で、

彼がその手元に気づき

目が合った瞬間、

やさしく微笑んでくれた。

 たったそれだけで、

胸がきゅんとして、

頬がぽっとあたたかくなる。

 




何度も会っているご両親なのに、

今日は少しだけ
緊張してしまった。
でもその空気を
感じとったかのように、

ご両親ともいつもと同じ、

やさしい雰囲気で迎えてくれた。





しばらくして彼が焼けたカルビを

お皿に乗せながら、

少し照れたように口を開いた。
「実はさ、せいかに
プロポーズしたんだ」





その言葉にお母さんが
一瞬箸を止めて、

私を見て言った。
「うん、なんか
そんな気がしてたのよ。
それってすごく嬉しいことね。

ほんとにおめでとう
せいかちゃん」




その声のトーンが、
ただのお祝いじゃなくて、

心からの祝福なんだと

伝わってきて、

胸がじんと熱くなった。




お父さんは黙って
ビールを一口飲んだあと、

私の方を見て穏やかな
口調で言ってくれた。
「せいかちゃんありがとうね。
なおやのこと、
これからもよろしく頼むよ」
短いそのひとことが

想像以上にあたたかくて、

やさしくて、
その場で涙がこぼれそうに

なるのを必死にこらえた。




私は「これからも
よろしくお願いします」って
返した声が少しだけ
震えてしまった。

でも、テーブルの下で
彼の手がそっと私の手を
握ってくれて。

まるで「大丈夫」って

言ってくれてるようで、

自然と笑顔になれた。




お母さんに「指輪見せて」と
言われ手を差し出すと
手を握ってくれて
「せいかちゃんに似合ってる
とてもステキね」と
言ってくれて
とてもうれしかった。




 

「よろしくね」って言ってくれて、
「ありがとう」って笑ってくれて、
それだけで心が
じんわりあったかくなった。
ちゃんと受け入れて
もらえた気がした。
 

 




お店を出て駐車場へ

向かって歩き出した瞬間、 

彼がなにも言わずに

 すっと私の手を握ってくれた。 

 「え…ここで?」 

思わず小さくつぶやいて、

 ドキドキして

彼の顔を見上げたら、

 にこって普通に笑ってた。 





 もう心臓がどうにか

なりそうだった。

 後ろにはご両親もいるのに

でも、うれしくて。

うれしくて。 

  「ねぇ、手つないだ

ままでいいの?」って

小声で聞いてみたら、 

「ダメな理由ある?」って

真顔で返されて、

 もうほんとにだめだった。

照れすぎて。 






 「もう、大好き」 って

ぼそって言ったら、

 「俺も」って、

ちゃんと返してくれる。 

 ああ、やっぱり、 

この人とずっと一緒にいたい。

彼も彼の家族も大事にしたい。 

心の奥でそう強く思った

帰り道だった。