打ち合わせのある朝。
彼が鏡の前でネクタイを
結んでいた。
ネクタイを結ぶ姿が
社会人モードになっていて、
私はついその姿を
見つめてしまう。
「ねぇ、結べた?」
そう聞くと彼は鏡越しに
笑って振り返った。
「うん、まぁ大丈夫…かな。
曲がってない?」 と聞く彼に
私は近づいて
ネクタイの結び目を
ちょっとだけ直しながら、
「うん、完璧!かっこいい」
とつぶやいた。
彼はちょっと
照れくさそうに笑って、
軽くキスをしてくれた。
「じゃあ…行ってくるね」
「その前に、はいっ」
私はお弁当袋を持ってきて、
彼に差し出した。
「食べたいって言ってた
照り焼きチキンだよ」って
「食べたいって言ってた
照り焼きチキンだよ」って
言ったら
「おっ、まじで?
「おっ、まじで?
がんばれちゃうな今日も」って
うれしそうに受け取ってくれる
うれしそうに受け取ってくれる
その顔に胸がきゅんとした。
学校が振替休日。
だから彼を見送れるのは
めずらしい朝だった。
玄関で「いってらっしゃい」
ってキスして手を振った。
ドアが閉まったあと、
なんとなくその場から
動けなくてしばらくぼーっと
玄関に立ってた。
さっきまでここに
彼がいたのに。
ネクタイを直した手の感触とか、
お弁当を渡したときの笑顔とか、
全部まだ頭に残ってる。
「がんばれちゃうな」って
言ってくれたあの声が
耳から離れなかった。
今日は学校お休みだから、
「いってらっしゃい」
って見送るの
なんか新鮮だった。
いつもは私が
「いってきます」って
出ていく側なのに。
すごくドキドキした。
……なんだろう。
一緒に住んでるって、
やっぱり特別だなって思った。
ちゃんと
「帰ってくる人」がいて、
「待ってる自分」がいるのって、
すごくいい。
