【前回】

 

 

 部屋の角に設置された机に近寄り、画鋲で壁に留められた紙に視線をやる。ルーズリーフに僕が書いた目標が記されている。

 

 子どもの頃から、僕は、目標を書いた紙を机の前の壁に貼っていた。子どもながら、日常生活に追われ、人間関係に苦しんだ自分が、進むべき道を見失わないように、目印をつける感覚で、やるべきことを書いた。動揺し不安になった時は、この張り紙を見た。過去の自分は、こんな大それたことを書いていたのかと、自分自身の恥部を再確認する気持ちになり、現在の僕は不安を忘れることができた。「目標は大きい方がいい。それに向かってコツコツ頑張れば、ちょっとずつでも成長できるから」除夜の鐘では払いきれないほどの煩悩を持っていた母は、僕によく言ってきた。

 

 今、僕の目の前の紙には、三つの目標が記されている。四年前に父と母がいなくなった直後にできた目標だ。

 「両親のことは忘れる」まだ達成できていない。なかなか難しい目標を設定してしまったな、と思う。この紙を見る度に思い出す。

 「書斎の本をすべて読む」ついさっき成し遂げたが、要した時間に比べて、得たものは少なかった。残っているのは最後に読んだ官能小説の内容だけだ。これはずっと忘れないだろう。

 三つ目を見る。

 「なるべく早く死ぬ」

 達成に向け試行錯誤中だ。