言葉の糸は細いか太いか | なのはな22のふたり言

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本・テレビ・映画の感想が多くなると思います。たまにフィギユアスケート。
ミステリーや時代劇、ビジネスドラマが好きです。

おととい(21日)NHK・BSの「舟を編む ~私、辞書つくります~」が終わったが、これは最初から最後までテンションが変わることなく見られて良いドラマだった。

 

原作の時代よりこちらの時代設定だったので、コロナ禍ピークの頃の状況も入れていたし、蛭田直美さんの脚本が良く出来ていたと思う。

 

コロナの影響で料理屋のお客がばったり減り困った香具矢(美村里江)は、京都の知人に誘われた仕事をするため、馬締(野田洋次郎)と別居する決心をする。

別居に抵抗する馬締。

香具矢を応援したいみどり(池田イライザ)は、距離が離れても言葉があるじゃないかと説得しようとすると、馬締の返事は

「言葉は無力です」

怒るみどり。

何年も懸けて辞書作りに心血を注いできた自分達の情熱、それは言葉の力を信じればこそじゃなかったのか!

・・・

 

ドラマは予想通り、馬締が香具矢を快く送り出す場面になる。

(快くといっても笑顔を作るのは苦しいが)

 

夫婦どちらにも情熱を注ぐ仕事があり、そのために何年か別居する選択は間違ってはいないと思う。

ただ、当時は県境を越えるのも制限があった時期なので、馬締にしてみれば「運が悪ければ2度と会えなくなるかもしれない」という深刻な心配をしても不思議はない状況だった。

 

当時を思い出すと本当にいろいろなケースを聞いたし、個人的にもあった。

このドラマはフィクションだが、馬締のような覚悟をせざるをえなかった人は現実にいたろう。

 

言葉は確かに力を持っている。

遠距離の人と気持ちが通じたように感じる事もあるし、身近な家族の無神経な言葉に傷つく事もある。

 

本当に言葉の運用は難しい。

 

「人は的を射た忠告より、見え透いたお世辞を喜ぶ」

どこかで聞いた言葉だが、なんだかため息が出そうになる。

 

亡父は薬(飲み薬も貼り薬も)を盲信する人で、あきらかに使用法が間違っているのに、いくら忠告しても聞かない人だった。そしてずっと不眠やら痛みやらの不調をかこっていた。

言葉の無力を痛感した期間は10年以上だった。

 

 

 

ここで話を変えると。

 

前回、映画「十二人の怒れる男」のタイトルをぽろっと出したのだが、最近聴いた本「六人の嘘つきな大学生」(浅倉秋成 著)が、この映画タイトルを踏まえた作品のようで面白かった。

12人の陪審員が一室で侃々諤々の議論を繰り広げる「十二人~」と違い、「六人~」は、就活中の6人の大学生が企業の試験で、狭い一室でグループディスカッションする。

企業側はモニターでその様子を見て内定者を決めるが、6人全員を内定にする事もありうるという話なので、皆は「全員内定を目指そう」と試験準備に力を合わせるのだが。

突然人事部から、内定者は1人だけに変更すると言われ、6人の関係は一気に緊張を孕む。

そして、グループディスカッションの日、とんでもない事態に・・。

 

これは面白くて、一日で全部聴いた。

トリッキーと言うか文章にも構成にも仕掛けが多くて、予想の裏をかかれる感じが楽しかった。

2段構えどころか3段構えだが複雑ではない。ただ、3段目がやや回りくどく、減速したのが惜しい気がした。

 

それからひとつ、どうにも「これはないだろう」と思った点。

人名を書くわけにはいかないので「彼」とするが、彼が残した真相を打ち明けるデータの宛先が、あれは酷い。

「犯人、○○さんへ」(○○は人名)

普通の国語力があればあんな書き方はしない。

 

作者は謎を重ねる事に熱心になりすぎて、無理をやり過ぎたように見える。惜しい。

 

 

この小説は映画化され、今年11月に公開される予定らしい。

出演は浜辺美波さんや赤楚衛二さんだとか。

とても映画的な小説だと思うので、どんな仕上がりになるか楽しみでもあり、あの部分はどう処理するのか気になるようでもあり・・。

 

 

 

 

 

今日もお付き合いいただき、ありがとうございました。