『アイヌ神謡集』と手島圭三郎さんのカムイ・ユーカラ絵本 | タイの子どもの本日記

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タイの絵本や子どもの本、タイの文化などについてぽちぽちと書いていきます。もと日本人会バンコク子ども図書館ボランティア。ご質問などはメッセージにお寄せください。

 

「銀の滴(しずく)降る降るまわりに

金の滴 降る降るまわりに」

「トワトワト」

 

このような美しくなぞめいたことばおねがい

学生時代、アイヌの少女知里幸恵さんがまとめ、1923年に翻訳した『アイヌ神謡集』を読んだときとても心ひかれましたが、あまりにも謎が多く、理解消化しきれないまま、そのフレーズが忘れられずにいました。

 

それが、NHKEテレの「100分de名著」でとりあげられ、何十年の時を経てようやくなるほどとわかり、うれしく思っています。

公式サイトはこちら

 

そして、その間にもいつのまにか木彫り版画絵本作家の手島圭三郎さんが、たくさんの美しく迫力あるカムイユーカラ絵本を出版してくださっていたのでした。

 

まず、私のナゾの一つ目だったのが「カムイ」の存在です。

「カムイは神様?」と思って読んでいると、ギリシアローマ神話や、北欧神話、身近な古事記などの神様と違い、すぐ人間に狩られてしまったり、意外に人間くさい失敗をしたり、どうもよくわかりません。

しかも、「気がつくと私は私の耳と耳の間にすわっていました」・・・??どういう状態???
 

たとえば、最初にあげた絵本『カムイチカプ』

こちらの絵本ナビのページで全ページためしよみができます。

 

このお話は、シマフクロウの「カムイ」が、失礼をはたらいたシャチの群れを海を荒れ狂わせてさんざんな目に合わせるもので、神様らしいです。

ところが、『ケマシコネカムイ』では、白いキツネの神さまが、てんのつかまえた魚を横取りしようとひっぱっている間に茶色い色になってしまい、それでキツネは茶色くなったというお話。

 

こちらの絵本ナビのページで全ページためしよみができます。

 

また、『エタシペカムイ』は、トドのカムイが自分より強い相手がいるとはらがたつのでさがしに行って、クマのカムイのところにけんかを売りにいき、2年も3年もけんかをするうちにくいちぎられたかけらが小さいトドとクマになり、今の小さいトドとクマになってしまった。

「これからいきていくものたちよ。けっしてむだなけんかをするな。じまんもするな。よわいものいじめをするなよ。なにもいいことはないのだから」

と、教訓を言うのは神様のようなところもあるでしょうか。

 

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そして、『チピヤクカムイ』はオオジシギの神様が天の神様の国から人間のようすを見に降りて来たのですが、あまりに人間の国が魅力的だったので、長居しすぎてしまい、天の国に帰れなくなったというお話です。

 

こちらの絵本ナビのページで全ページためしよみができます。

 

こうしたことが、『100分de名著』を見て、言語学者中川裕先生のテキストを読んでふにおちたような気がします。

 

「アイヌ語のカムイは別世界に住んでいるものではありません。その辺を歩いているネコも、イヌも、スズメもカラスも、木や草もみんなカムイで、人間はカムイにとり囲まれて暮らしているのです」

そして、「家、舟、刀、鍋・・・これらもみんなカムイ」なのです。

「結局のところカムイとは何なのでしょうか。あえて言うならば、「環境」という言葉が一番近いと私は考えています」

「人間と環境が良い関係を保っていれば、人間は幸せに暮らせる」

 

ふーむ・・・

そういえば、鍋の神様の出てくるアイヌのむかしばなしを、どいかやさんが楽しく美しい絵本にしています

『ひまなこなべ』。

 

 

これを見ると、クマのカムイが、なぜ人間に射殺されるのか、それはあえて撃たれに行って、そしてもてなされたお酒やかざりなどを天の国に持って帰るためだったのです。ここではじょうずに踊る若者の正体を知りたくて、何度も射殺されに行きます。

そして、「耳と耳の間」は、死んだクマの体の耳と耳の間に、ちょこんと魂がすわっている絵も描かれています。

こういうことか!

「耳と耳の間にすわっている」というのは、「肉体はもう獲物として命が無いけれど、人間の形をしている魂は不滅」ということを表した、アイヌ語の常套表現なのだそうです。

(この絵本は大好きで持っています、絵本ナビのこちらのページで全ページためしよみができます

 

そして、「トワトワト」「ホーリムリム」などは「サケヘ」と呼ばれ、語られる文学であるアイヌの物語の1行ごとの冒頭につくことばだそうです。

もう放送が終わってしまいましたが、「100分de名著」の第2回で、この「語り」を実際に聴くことができました。

(NHKオンデマンドでは観られます)。

国立アイヌ民族博物館のサイトで、こうした語りを聴くことができます。(公式サイトはこちら)

 

タイ文学も口承文学の国で、韻文はリズムとメロディーを楽しませるということもあるので、興味深く観ました照れ

 

そして、私が手島圭三郎さんのカムイのシリーズで1番好きなのは、

『イソポカムイ』なんです。

 

 

年老いて目が見えにくくなったウサギのカムイが、地域を見回りに行きます。

砂浜で打ち上げられたクジラに群がる人々を見て、手伝ってわけまえをもらおうと喜んで急いで走ります。

ところが近づいてみると、それはゴミの山にカラスの群れがむらがっているのを見間違えていたのです。

ウサギはがっかりしてはらがたちました。

それからもいろいろと見間違え・・・

川でけんかをしている人間を見つけて止めようと必死で走ってずぶぬれになったら、それは木の根っこが流れていたものだった。

このときのずぶぬれのウサギの姿がなんともあわれで。

また、家が燃えているのを見て、しんぞうが破裂しそうになりながら走っていくと、それは黒雲がわいているだけ。

 

それからというものウサギはとおくへ出かけるのをやめて、子どもやまごたちとのんびりくらしました。

「ホーリムリム、ホーリムリム、年をとったら、

ホーリムリム、ホーリムリム、むりはしないように、と、いっぴきのイソポカムイ、年おいたウサギの神さまが、人に語りましたとさ」

 

でもね、ウサギは見間違えたとはいえ、助けたりしようと一生懸命に走ったのです。

最後のこどもやまごにかこまれたウサギはすっきりした笑顔でした。

 

これから年をとっていく道にいる私には、あわれに思ったりいいウサギだなあと思ったり、そうそうムリはいけない、とうなづいたり、泣き笑いでとても心にしみましたおねがい

 

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