バンコクのスワンナプーム空港に行かれた方は、このようなディスプレイを見たことありませんか?
これはインド神話の「乳海攪拌(にゅうかいかくはん)」のようすですね。
タイ文化にも影響を与えた『インド神話』ですが、岩波新書から新刊として出ました。
そしてイラストは、破天荒でエネルギッシュなスズキコージさん。
インド神話の生命力を描くにはぴったりかなと思い、さっそく予約したものが届きました。
著者はあとがきでこう書いておられます。
「インド神話の本を作るのは、私の夢でした。どうしてかというと、ギリシア神話や北欧神話や中国神話などの本はたくさんあっても、インド神話の本は、実はとても少ないからです」
たしかに、私も子どものころ少年少女世界文学全集みたいな本で(私の子ども時代はそういうのを買うのがはやっていた)、ギリシア神話や北欧神話は読んだことありますが、インド神話はなかったかも・・・
インド神話はタイ文化にも大きな影響を与えているので、知らなければいけないのですが、なにしろ神様の数も多く、関係も入り組んでいて、一柱の神様がいくつものお名前で化身(アヴァターラといって、「アバター」の語源だそう)されるし、なかなか身につきません。
この本は、できるだけインド神話をわかりやすくまとめるようにされています。
インド神話で重要なものに「アムリタ」という不老不死の聖水があります。
そのアムリタを得るためにされたのが、「乳海攪拌」です。
はじめて知ったのは、在タイ中に、友人家族と三家族で、日本人ガイドさんがひとりついて、バン貸切のツァーでアンコールワット観光に行ったときでした。
アンコールワットの壁画や、アンコールトムの門の前の彫像に描かれていたのです。
でも人を入れずに撮っていたのが、このスワンナプーム空港のものだけで・・・
それもこの本でまとめられて、よくわかりました。
アムリタを得るためには、神々と悪魔(アスラ)が協力して海をかきまぜなければならないとヴィシュヌ神がおっしゃいます。
ヴィシュヌ神は、さまざまな化身をされることで知られていて、『ラーマーヤナ』のラーマ王子、『マハーバーラタ』のクリシュナもヴィシュヌ神の化身だということも、この本の別の章で書かれています。
さて、アムリタを得るために、亀の王アクーパーラが、背中にマンダラ山をのせます。
その山に「ぐるぐるとヴァースキ蛇を巻き付けて縄のようにしました。
綱引きにようにして海をかきまぜるのです」
へびの一方のはしを悪魔たちが、尾のほうを神々がつかまって引き合いました。
ヴィシュヌ神の力を得て、ついに乳のように泡立つ海からラクシュミー神(シュリー女神)と、美しい医神ダヌヴァンダリが生まれて、かかえるつぼにアムリタが入っていたそうです。
ヴィシュヌ神はすばやくアスラでなく神々にアムリタを飲ませますが、ラーフという悪魔が神様に化けて半分飲んだところでばれて、半身を切られてしまいます。
しかし、半身は不老不死になったため、うらんで月と太陽を定期的に飲み込んで、それが日食月食となったそうです。
このラーフーさまは、タイでもさまざまな寺院に像があって、黒い色の供物をお供えするといいそうです。
ところで、この乳海攪拌も写真のように独特な形。ラーフーさまやさまざまな神様もなかなか想像はむずかしいので、巻末にじっさいにまつられている像などの写真があってもよかったかなと思います。
スズキコージさんのイラストが思ったよりなかったんですよね。
それこを1冊の絵本になったほうがスズキコージさんの力もよく表されたかと思います。