沢田研二氏をめぐる一連の騒動について | 渡る世間にノリツッコミ リターンズ(兼 続日々是鬱々)

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フリーライター江良与一のブログです。主にニュースへの突っ込み、取材のこぼれ話、ラグビー、日常の愚痴を気の向くまま、筆の向くまま書き殴ります。

少し前のことになるが、ジュリーこと沢田研二氏のステージドタキャンが少々世間を騒がせた。ザ・タイガースの時代のみならずソロになってからも数々のヒットを飛ばし、レコード大賞をはじめとする数々の受賞歴もあるスター中のスターである彼にとっては、ガラガラの客席を前に歌う屈辱に耐えられない、という心情は理解できないでもない。

 

しかし、客席を一杯にしたいなら、もう少し客のニーズに寄り添う必要があるだろう。なんでも沢田氏は毎年新しいアルバムを出しており、その折々の最新曲を歌うことを常としているそうだ。常に新しい表現を追い求める姿勢は姿勢として立派だし、その姿勢について来る客だけだってアリーナの一つや二つ満席にしてやるさ、という気概は大したものだと思うが、彼のコンサートに来る客はやはり往年のヒット曲を聴きたいという思いを持っていることだろう。私自身は聴いたことのない曲を聞かされるコンサートには行きたいとは思わない。

 

昔のヒット曲には、その曲自体の魅力もさることながら、その歌を「リアルタイムで聴いていた頃の自分」という物語が付随しているのだ。昔の自分やその置かれた環境を懐かしく思い出すのも、昔のヒット曲の「商品価値」の一部なのだ。ちょっといやらしくマーケティング用語を使って説明してしまうが、曲本来の魅力は「機能的消費」であり、曲にまつわる個人的な思い出は「情動的消費」であると言えるだろう。

 

客の情動的消費欲を満たすことのできない沢田氏の現在の活動方針は、残念ながらマーケティングとしては大いなる失敗である。結果として客足がだんだんと遠のき、今回のような騒動となる。

 

いっそのこと沢田氏はクラシックジュリーとニュージュリーとでも名義を分けて、クラシックの場合は徹底して昔の曲を歌う、ニューの場合は現在の歌しか歌わないという「二毛作」をやったらいいのではないかと思う。昔の曲が聴きたいファンと、あくまでも今の沢田氏の姿を観たいファンとで上手く棲み分けができると思うのだが、いかがだろうか?周りのスタッフが泣き落としでもなんでもかけて説得してみる価値はあるように思う。少なくとも私はクラシックジュリーの公演なら一度くらいは行ってみたい。

 

ついでに言うと、つい先日、初めてチケットに当選して山下達郎氏のコンサートを拝聴する僥倖を得た。山下氏はベタな曲をやるのはあんまり好きではないとは言いながらも、「結局お客さんは自分の好きな曲がかかると大盛り上がりする」とMCで笑いを取りながら、自分自身の曲だけでなく、ロイ・オービソンの『オー・プリティー・ウーマン』や、マッチに提供した『ハイティーン・ブギ』まで演ってくれた。客席が大盛り上がりになったのは言うまでもない。山下氏こそ、「知らねーやつは知らねーでもいいよ。俺は演りたい曲を演る」という姿勢の持ち主だと思っていたのだが、客を喜ばせることが一番という、エンターテナーとしての気概を持った方だったことには少々意外性を感じた。

 

それから、最近私は、職場で比較的年齢が近い方々と月一でカラオケに行き、昭和の歌縛りで思いっきり歌う機会を定番化したのだが、やっぱり、個人的に好きなアルバムの中の曲を歌うよりは、シングルカットされてヒットした曲の方が盛り上がる。盛り上がった方がやっぱり楽しい。

 

冒頭でも述べたが、沢田氏はもう少し往年のファンを大事にした方が良いと思う。私が小学生くらいの頃、TBS系列で『ワンツーパンチ!』という幼児向け視聴者参加番組があった。要するに、就学前くらいのお子ちゃまを集めてゲームをやったり歌を歌わせたりする番組である。とある夏休みの日、この番組を観るともなくみていたら、司会のちょっと太って、まん丸いメガネをかけたおじさんが恐る恐る「今日は、素敵なお客様に来ていただきました。沢田研二さんです。」と言って沢田氏をステージに登場させた。瞬間、会場は見事にひいた。ステージ上の子供たちもキョトンとしていた。子供達のお母さんくらいの年代を狙った、当時としては斬新なプロモーション活動ではあったが、見事にマトを外していた。当時の沢田氏はレコード大賞を獲る前のちょっとした低迷期で、後の『TOKIO』の時みたいにパラシュートを背負うわけでもなく、『時の過ぎゆくままに』みたいな、ちょっと気だるい雰囲気を漂わせた歌が多かった。このステージで歌ったのも『コバルトの季節の中で』というミドルテンポのバラード。ますます客席はひいて行き、完全なアゥエイ状態だった。そんな日々を積み重ねたからこそ、ヒット曲が生まれ、そのヒット曲にファンがついたのだ。そのファンを無視するのは罰当たりなのではないか。