私の名は戸田快子(とだかいこ)
仕事は老人介護センターで毎日給食作ってる
職場ではトナカイって呼ばれてる
32歳独身
結婚歴はナシ
バツイチじゃなくて
もう年末か
1年もあっという間ね
こないだ姪っ子へお年玉あげたばかりなのに
私もあっといまに34歳
来年はもう35歳
アラフォーになる
見合い話も最近はこなくなった
自分でいい人見つけないとって思うんだけど
なんか、ね・・・
今日は12月24日クリスマスイブ
30代半ばの独身イブって
そりゃ地味よ
若いころみたいにオトコ言い寄ってこないし
プレゼントくれる人もいない
でもこの日
12月24日は
私には大切な役目がある
それは
サンタクロースと一緒にプレゼントを配る
サンタは妄想キャラクターですって?
いいえ違うわ
サンタはちゃんと実在する
私が運転するハイエース
助手席にサンタクロース乗せて
世界中の子供たちの家を回り
プレゼント配るの
ウソじゃない
本当の話
移動手段はハイエースだけじゃない
プライベートジェット
ドローン
船やヘリ
5年前からオスプレイも操縦する
そうでもしないと
世界中の子供たちに会えない
そんなに多くの子供たちに
プレゼントを渡せるわけない
ですって?
いいえ、できるわ
私、毎年世界中の子供たちに会いに行ってる
本当よ
毎年12月24日の夜23時
私は「時空」を止める
世界中の時間が止まる
世界中の動きが止まる
地球も月も宇宙の星々も
草木の動きも
飛ぶ鳥の姿も
人々の動きも
心臓の鼓動さえも全部止まる
一点の曇りもない静けさが訪れる
時空は止まってるけど
私とサンタは動くことが出来るの
私たち2人は歳も取らない
お腹も空かない
眠くもならない
ずっと世界中の子供達に会いに行くの
全世界の子供たちへ配るのにかかる時間は
760年
鍵かかってる家を開けたり
まだ起きてる子供が寝るの待ったり
すごく時間かかるの
でも
子供たちの寝顔はかわいいし
プレゼントを見つけた時の子供たちを想像すると
とてもワクワクする
プレゼントを配るのはとても楽しい
涙が出そうになるくらいに
760年かけて配り終えたら
私はまた時空を動かす
宇宙が再び動き出す
私とサンタにとっては760年の時が流れたけど
世界の人たちが感じる時間はほんの一瞬
時間が止まった感覚すらない
さあ
もう少しで12月24日の夜23時
時空を止めなきゃ
今から私は
サンタクロースと380年の間一緒に過ごすの
サンタの名前は
シン・ソンチョル様
私のサンタ
ワクワクする
また会えるのを1年間ずっと心待ちにしてた
来る
サンタが来る
真っ赤な衣装に身を包み
穏やかな笑顔で
ゆっくりと私に向かってくる
私のサンタ
シン・ソンチョル様
「ひさしぶりだな、トナカイ」
ソンチョル様・・・お待ちしてました
「今年も頼むぞ」
私は両手を胸の前で合わせ
小さく呪文を唱える
その瞬間
真っ暗だった闇の世界に
まばゆい光が広がる
あたりは昼間のように明るく照らし出され
一面に静けさが広がる
時が
止まった
「さあトナカイ 子供たちのもとへ」
待って、ソンチョル様
そんなに急がないで
子供たちにプレゼントを配る旅の前に
お互いプレゼントを交換する約束でしょ
今年
私からソンチョル様へのプレゼント
本当はずっと前にソンチョル様に渡したかった
このクリスマスプレゼント
今日はR7年一級建築士製図試験の
合格発表日
あなたはずっと挑戦し続けてきた
毎日毎日
ひたすら参考書に向き合う日々
問題集はマーカーだらけ
法令集は手垢でボロボロ
平行定規は使いすぎで
ローラーから軋む音がする
上司や部下から白い目で見られようと
絶対に一級建築士になる一心で努力を重ねた
あなたはひたむきに頑張ったわ
だから
今から始まる長旅の前に
渡しておきたいの
きっとこれからソンチョル様の力になる
勇気と希望
私からのプレゼント
ソンチョル様
受け取ってください
R8年一級建築士製図試験
再挑戦権を
シン・ソンチョルの受験番号ありませんでした
「ありがとう・・・トナカイ」
ソンチョル様が私を強く抱きしめる
嬉しい
ソンチョル様の温かいぬくもり
私にとって最高のプレゼント
ソンチョル様
今日からあなたの事をこう呼ぶわ
元在日朝鮮人
一級建築士製図8回不合格
サンタクロースって
さあ
行きましょう
子供たちのもとへ
760年の旅へ
(おしまい)
またダメでした
来年頑張ります
by シン・ソンチョル



















