暗闇の一歩 | 名無しの唄

名無しの唄

鼻歌と裏声の中間ぐらいの本気

一寸先は闇、という。
それは得てして悲観の理論だ。
進めば即ち転ぶという。だからこそ転ばぬように準備や覚悟をすることが、教訓として導き出されることになる。

そして人は慎重になる。
歩む前に止まってみる。止まってなお遠めであっても見てからする。見て考えつつ考えを繰り返す。
そういうことを経ていくうちに、一番危険な状態を、何も見えていない状態を通り過ぎていくのである。
その後にこそ歩き出すことで、闇は既に無い。

しかし、と思う。
闇が晴れている状態ならば、確かに失望という契機を迎えることはない。
しかしそれは、希望ではないのであって、だからどちらかといえば絶望に近いのではないかと思う。
晴れ渡った一歩を進むその時には、踏み込む次の足の置場も見えているままだ。暗闇であるからこそ、その以歩を踏み出すに可能性という世界が広がっているのではないか。

暗闇は歩くに適さない。
自信を持って過信して、そのままに人生を組み立ててきた自分自身が、足元から蹴り飛ばされることになるかもしれない。
しかしそれでも、歩き出さないわけにはいかないときがあるのだ。見えていて失望も希望も無い状態では手に入らないものが欲しくて、だから暗闇という希望に賭けていくのだ。

待って巡り合う海路の日和には、きっと宝の光はない。
否定されながら、失敗をみながら、二度と歩き出すものかと思うほどの痛手を時に負いながら、それでも絶望よりはなお希望を望んで暗闇に踏み出したいと思うときがある。