絶望カウントダウンがスタートしてから決戦の日までは、あっという間でした。
その間、まずは母のひとり暮らしに向けて、ガスや電気、水道の手配をしたり、必要な家具や家電の準備も進めました。
母にとっては、60を前にして初めてのひとり暮らしです。
10代後半の私や妹が初めてひとり暮らしをする時に感じた、あのワクワクや開放感なんてあるはずがありません。
不安。
寂しい。
やるせない。
惨め。
そんな感情がぐるぐると回っていたのではないかと思います。
もしかしたら、この時点ではまだ、母はどこかで父を信じ、ひとり暮らしを思い留まろうとすらしていたのかもしれません。
妹によるラブホテル尾行作戦が決行されてすぐ、毎日のメールチェックで、クソジジイとダダはなにやら喧嘩していることがわかりました。
とはいえ、これまでもあった「信仰強化」のじゃれあいです。
それにも母は、何かの希望を見出しているかのように見えました。
優子
「そんなにLINE、LINEって言うなら、携帯変更してくればいいんでしょう? でも必要になったらどうしてくれるの?」
前後のやり取りは消されていて、詳細はわかりません。
おそらく、クソジジイが優子とほかの男とのLINEのやり取りを疑って、勝手に拗ねたのでしょう。
電話もメールも無視されて「どん底よ」と、優子は嘆いていました。
きもい。てゆーか、携帯変えてもLINEなんかそのまま使えるだろ。
とはいえ、ちょっと不仲な様子が見えて、母は期待をした様子の母。
引っ越しについても、本人はまったく準備をしようとしていませんでした。
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その翌日、案の定ふたりは仲直りし、信仰心を強めてました。
クソジジイ
「優子 今回も本当にごめんなさい(土下座×6)俺がいつも自分勝手を優子にぶつけてる
優子の気持ちをまったく考えずに(土下座×2)、優子にあらぬ疑いをかけるようなことばかり言って。
そして、挙句の果てには、優子に捨てられるのが怖くて、自分の愚かさに気づき(土下座)、謝る始末(土下座)
今回ばかりは、今まで以上に反省しています。申し訳ございません」
今まで一度だって、母に対してこんなに土下座したことがあったでしょうか。
誰よりも、あのクソジジイの自分勝手なわがままを受けて、耐えてきたのは母です。
ダダじゃない。
このメールは、何かの引き金になったのでしょう。
翌日、ついに母が動きました。
母「尾行した」
私「え?」
母「朝、会社に行くところを尾行したの」
妹「まじで?」
母「寄ったよ。優子の家に」
妹「あ、弁当か!」
母「そう。慣れた様子で入っていった」
ルーティン化していたお弁当日を把握していた母は、優子の元にお弁当を取りに寄るクソジジイの姿を自分で確かめに行きました。
もう、限界だったのでしょう。
帰宅後、その第1戦の火蓋が切って落とされました。
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