母が父の怪しい電話を聞いたのは、妹から電話があったちょうど1週間前、10月のある木曜日のことでした。

 

その週末、私と彼氏(現在の夫)、母、妹とその子どもたち、そして義理の妹とその子どもたちという9人で温泉旅行に出かける予定になっていたんです。

 

「明後日は二度とないチャンスなんだから、少しでも会おうって 」

 

実家のリビングでうとうとしていた母は、寝室から聞こえてくる話し声に気づき、聞き耳を立てたそう。

普段、電話などほとんどしない父が、何度も何度も「明後日は二度とないチャンスなんだ」と誰かを説得している。

そう、“明後日”とは、まさにその旅行の日で、もはや怪しさしかない……。

 

翌日の夜には私たち夫婦が実家に前乗りしたため、母は何も確認できず、不安を抱えたまま温泉旅行に出かけたようでした。

そして帰宅してすぐ、父が寝静まったのを見計らって携帯をチェックしたところ、前回書いた「浩一郎とは別れられない」メールが出てきたのです。

 

父の携帯は受信も送信もほとんど消されていたため、チェック初日はそのメールしか見つかりませんでした。

母としては「相手から一方的に迫っているだけで、まさか肉体関係はないだろう」と思ったそうです(いやいや、それは都合よく解釈しすぎでしょって感じですが……)。

 

まあ、「思った」というよりは、何が起きているのか理解するのを必死で拒んでいる、という感じでした。

結局その“抵抗”は、2日目のチェックであっさりと崩れ去るわけですが……。

 

翌日の携帯チェックでは、あっさり2人が待ち合わせのラブホテルを相談するメールが出てきたのです。

 

「206号室がいいな」

 

優子が部屋まで指定していたため、メールを見た私も妹も当然、そっこーでそのラブホテルを検索しました。

 

母には今でも言えていませんが(と、言っても後にもっと生々しいメールが出てくるんですけど)、優子が指定した206号室は、そのホテル唯一の“SMルーム”だったのですゲロー

なんか、十字架みたいなのがあって、鎖やらなんやらがその辺にゴロゴロ……。

 

「おい、父よ、お前はどっちなんだ?(縛られるほうか? 縛るほうか?)」

 

と、パニックになりましたね。はい。

当然、私も妹も言葉を失い、そっと検索窓を閉じました。

 

こうして疑惑が確信に変わるまで、本当に一瞬の出来事でした。

同時に、楽しかった温泉旅行の思い出も一瞬に消え去ってしまったことは言うまでもないでしょう。

 

ただ、父にとって“チャンス”の日だったその旅行は、実は私にとってはとても重要なものでした。

そもそも温泉旅行を計画したのは、私の彼氏でした。

長年父との確執を抱え実家から遠ざかっていた私を見かねて、彼が「たまにはお母さんを労いに温泉に行こうよ」と言い出したのです。

彼との結婚を意識するようになったことで、私も「家族との関係修復に向けて一歩歩み寄るタイミングかもしれない」と、賛同しました。

 

大学進学とともに家を出てほとんど帰らなくなっていた私は、弟と結婚して 10年目になる義理の妹とはまともに会話する機会がないままここまできてしまっていました(彼女には怖い面があったことが、のちにいろいろ出てくるんですが……)。

気がつけば姪っ子と甥っ子は小学生。

地元で生活し、知らぬ間に増えていく家族とそこで築き上げられていく“絆”的なものを想像すると、もはやそこに自分の居場所がないことくらい、十分わかっていました。

 

とはいえ、それは自分が望んだことでもあったし、そのままでもよかったんです。

でも、唯一仲の良かった妹や彼女の子どもたちが、「家族」というコミュニティに私を繋ぎとめようとしてくれていることに少しホッとしているところがあったのも事実でした。

 

だから、もう少しだけ歩み寄ってみたかった。

家族っぽい時間とか過ごしてみたかった。

 

実際、温泉旅行は楽しかったし、本当にいい機会だったなと思いながら私は東京に戻りました。

 

でも、結局“また”、父にハシゴを外されたのです。

 

あの日、「楽しかったねえ。次は浩ちゃんも来れるといいなぁ」と言っていた母は、どんな気持ちだったのでしょう。

それを聞いて、「いつかは、父も一緒に来られるようになるかな」と心を緩めてしまった私は、今、怒りに押し潰されそうです。

 

ここから、家族を疑うだけの日々が始まりました。